「予備自衛官は副業していいのか」という検索には、実は2つの意味が混ざっています。ひとつは予備自衛官が本業や予備自衛官以外にも稼いでいいのか、もうひとつは会社員が”副業のように”予備自衛官をやっていいのか。どちらも答えは条文にあります。この記事では自衛隊法75条・73条と防衛省の公開情報だけを根拠に、予備自衛官と副業の関係を整理します。現役自衛官の線引き(62条・63条)は自衛官の副業はどこから規則違反?に分けてあります。
結論:予備自衛官に自衛隊法の副業制限はかからない
先に答えです。
- 予備自衛官には、現役自衛官にかかる副業制限(自衛隊法62条・63条)が適用されません。自衛隊法75条1項が「第六十一条から第六十三条までの規定は、予備自衛官については、適用しない」と明記しています。
- 招集されて自衛官として勤務している期間でさえ、62条・63条は適用除外です(75条2項)。
- したがって、予備自衛官が本業のほかに副業をすること、あるいは会社員・自営業者が予備自衛官を「もうひとつの活動」として持つことは、自衛隊法の側からは止められていません。
ただし「自衛隊法が止めていない」と「何の制約もない」は別です。制約は本業の勤め先のルールと税金の手続き、そして招集に応じる義務の3か所に移ります。順に見ていきます。
条文で確認する|自衛隊法75条が予備自衛官を「隔離」の外に置いている
現役自衛官にかかる3つの条文
現役の隊員には、61条(政治的行為の制限)、62条(営利企業の役員・自営の禁止)、63条(報酬を受けて他の職・事業に就くときの承認)がかかります。この3条が「自衛官の副業は承認制」と言われる根拠です。
75条:予備自衛官への適用除外
自衛隊法75条1項は、41条・第三節・54条1項・60条2項3項・61条から63条までなどの規定を、予備自衛官については適用しないと定めています。ただし書きで、61条1項(政治的行為の制限)だけは訓練招集中は適用がある、とされています。つまり訓練で駐屯地にいる間は政治活動の制限がかかりますが、副業に関する62条・63条はそもそも外れているわけです。
さらに75条2項は、招集命令を受けて自衛官となっている者についても、62条・63条は適用しないと定めています。災害招集で1週間勤務している間に、自分の事業や副業が「違反」になることはありません。
なぜ外れているのか
理由は制度の建てつけにあります。防衛省の制度説明にあるとおり、予備自衛官は「日頃はそれぞれの職業に従事し、企業などの一員として勤務しつつ、年間5日間の訓練に参加する」存在です。身分は非常勤の特別職国家公務員で、防衛省の定員外。本業を持っていることが前提の制度なので、「他の職に就くな」という条文を当てると制度が成り立ちません。会社員も自営業者も学生も予備自衛官になれるのは、この適用除外があるからです。
予備自衛官の制度と数字(令和8年4月1日現在・防衛省公表)
副業の話をするうえで、予備自衛官としての収入がどの程度かを押さえておきます。数字は防衛省の予備自衛官等制度ページの公表値です。
| 項目 | 予備自衛官 | 即応予備自衛官 |
|---|---|---|
| 身分 | 非常勤の特別職国家公務員 | 非常勤の特別職国家公務員 |
| 任用期間 | 1任期3年(継続任用可) | 1任期3年(継続任用可) |
| 年間の訓練 | 5日間(2回に分割可・土日祝中心) | 30日間 |
| 月額の手当 | 教育訓練招集手当 月額13,100円 | 即応予備自衛官手当 月額19,700円 |
| 訓練招集手当 | 日額11,600円 | 日額18,200円〜27,200円(階級による) |
| 勤続報奨金 | 1任期(3年)70,000円 | 1任期(3年)215,000円 |
| その他 | 訓練招集旅費・被服貸与・食事支給・公務災害補償 | |
ざっくり言えば、予備自衛官は年間で手当十数万円+訓練5日分、即応予備自衛官は月額と30日分の日額で年間数十万円という規模です。「予備自衛官そのものを副業収入の柱にする」という発想は現実的ではなく、本業と副業の土台の上に、社会貢献と手当が乗ると考えるのが実態に合っています。
制約①:本業の勤め先のルール|「副業禁止」と予備自衛官の関係
会社は予備自衛官であることを理由に不利益扱いできない
自衛隊法73条は、雇う側が予備自衛官であることを理由に採用で不利に扱うこと、解雇その他の不利益な取扱いをすることを禁じています。さらに73条の2で、本人の同意があれば防衛省から勤め先に訓練予定などの情報提供ができ、73条の3では予備自衛官を雇用する企業に給付金を支給する仕組みも用意されています。国として「会社員が予備自衛官であること」を後押ししている構造です。
それでも就業規則の確認は必要
ただし73条は「予備自衛官であることを理由に不利益扱いするな」という規定であって、会社の副業規定そのものを無効にするわけではありません。実務上は次の整理になります。
- 予備自衛官としての活動:公務(非常勤の国家公務員としての勤務)なので、多くの会社では「副業」の枠で扱われません。ただし届出・承認を求める会社はあるので、就業規則の「兼業」の条項を確認し、人事に伝えておくのが安全です
- 予備自衛官とは別の副業(ライティング、デザイン、物販など):これは普通の副業です。会社の副業規定がそのままかかります。自衛隊法が止めていなくても、会社が禁止していれば会社のルールが優先です
本業が公務員の場合
公務員が予備自衛官になる場合は、国家公務員法・地方公務員法の兼職の規定に従って任命権者の許可(承認)が必要になるのが通常です。自衛隊法側の制限はなくても、本業側の兼業ルールは残る点は会社員と同じです。公務員の兼業の考え方は公務員の副業ガイドにまとめています。
制約②:税金|手当は「もう1か所の給与」になる
予備自衛官の手当は、源泉徴収のうえ給与として支払われるのが一般的です(源泉徴収票の有無で確認できます)。すると本業の給与と合わせて「給与を2か所から受けている」状態になり、確定申告のルールが変わります。
- 原則:給与を2か所以上から受けていて、年末調整されない側の給与収入と、給与以外の所得の合計が年20万円を超える場合は、所得税の確定申告が必要
- 20万円以下:所得税の確定申告は不要でもよいが、住民税の申告は別途必要(住民税に20万円ルールはない)
- 副業も持っている場合:予備自衛官の手当と副業所得を合算して判定する。副業(雑所得)は「収入−経費」で計算する
つまり「予備自衛官の手当だけなら20万円以下で申告不要」と思っていても、副業の所得が乗った瞬間に合計で20万円を超えることがよくあります。副業の所得は勤め先の年末調整では処理されません。どちらの申告でも、1年分の収入と経費を自分で集計することになります。帳簿づけと申告書の作成をまとめて行いたい場合は、弥生のクラウド確定申告ソフトのような会計ソフトを使う方法があります(料金・対応範囲は公式サイトでご確認ください)。[PR]
制約③:招集に応じる義務|副業の納期と訓練・災害招集の両立
予備自衛官の本質は「招集されたら自衛官として勤務する」ことです。訓練招集は年5日(即応は30日)で、防衛省は「勤務の状況等により都合の良い時期を選んで出頭できる」「仕事の都合でやむを得ない場合は2回に分割できる」としています。本業との調整はしやすい設計です。
一方で災害招集は予告なく来ます。東日本大震災以降、予備自衛官は5回、即応予備自衛官は7回招集されています(能登半島地震を含む・防衛省公表)。副業を持つなら、納期が固定の受託案件よりも、自分のペースで止められる型(ストック型のコンテンツ、単発の講師・執筆、予約制の小規模サービス)のほうが招集と衝突しにくい、というのが設計上の現実です。
予備自衛官と相性のいい副業の型
自衛隊法の制限がない分、予備自衛官の副業選びは「招集と衝突しないか」「本業の規定に触れないか」の2点で決まります。相性で分けると次のとおりです。
| 型 | 例 | 招集との相性 | 備考 |
|---|---|---|---|
| ストック型 | ブログ・電子書籍・動画のストック、写真素材 | ◎ 止めても収入が止まりにくい | 立ち上がりに時間がかかる |
| 単発・予約型 | 講師、執筆、資格を生かした単発指導 | ○ 招集時は断ればよい | 自衛隊経験(防災・安全管理・体力づくり)が売りになる |
| 受託・納期型 | クラウドソーシングのライティング・デザイン案件 | △ 納期中の招集で信用を落とすリスク | 短納期の案件を避け、余裕のある案件を選ぶ |
| シフト型 | 時給制のアルバイト | △ 訓練5日と重なると調整が必要 | 本業の副業規定に最も触れやすい型 |
受託型を選ぶなら、最初から「納期に余裕がある案件」に絞るのが予備自衛官向きの動き方です。案件の種類と相場感はランサーズのようなプラットフォームに登録して眺めるだけでもつかめます(登録自体に費用はかかりません)。[PR]
元自衛官の経験を副業に変える発想は、自衛官の副業完全ガイド(在職中の準備×退職後独立)の退職後ルートがそのまま使えます。予備自衛官は「退職後」に当たるので、制限なく動けるのが強みです。
これから予備自衛官になる人へ|志願の流れと、副業を始めるタイミング
志願の流れ(防衛省公表)
- 相談:最寄りの地方協力本部(地本)に問い合わせて制度・募集条件を確認する(相談のみでも可)
- 志願票の提出:必要書類を地本に提出する(予備自衛官補はオンライン提出も可能な場合がある)
- 試験・選考:面接・身体検査・筆記や口述など
- 採用:合格すると地本から連絡がある
応募できるのは、自衛官として1年以上勤務した経験がある人、または予備自衛官補として採用され必要な教育訓練を修了した人です。自衛官未経験なら予備自衛官補から入ります。自衛隊を退職して1年未満で採用された場合、初年度は地本などで行う「1日間訓練」のみで、翌年度から5日間訓練に進む設計です。
副業はいつ始めるか
予備自衛官の採用と副業の開始に順番の決まりはありませんが、最初の1年は訓練の出頭サイクルに慣れることを優先し、副業は本業・訓練・生活の3つが回ってから乗せるほうが続きます。初年度から納期のある受託案件を抱えると、訓練日程の調整が二重になってしんどくなります。ストック型の仕込み(発信の土台づくり、ポートフォリオの制作)は初年度からでも無理がありません。
勤め先に使ってもらえる制度
会社に予備自衛官であることを伝えるとき、「会社側にもメリットがある」と示せると話が早くなります。防衛省は企業向けに、予備自衛官等を雇用する企業への給付金制度、協力事業所表示制度、予備自衛官証明書を用意しています。本人の同意があれば訓練の予定期間などを防衛省から会社に直接提供してもらうこともできます(自衛隊法73条の2)。副業の話とは別に、この3つを人事に案内しておくと、訓練5日の休みが取りやすくなります。
よくある質問
Q1. 予備自衛官でも開業届を出して事業をしていい?
自衛隊法62条(自営の禁止)は予備自衛官に適用されないので、自衛隊法の側からは問題ありません。本業が会社員なら会社の副業規定、本業が公務員なら兼業の許可が別途必要です。
Q2. 訓練招集中に副業の連絡対応をしてもいい?
62条・63条は招集中も適用除外ですが、訓練中は自衛官としての服務規律(勤務時間中の私用、情報管理など)がかかります。対応は休憩時間や訓練外の時間に限るのが現実的です。
Q3. 会社に予備自衛官であることを言わないといけない?
法律上の義務ではありませんが、訓練で年5日休むこと、災害招集があり得ることを考えると、伝えておくほうが自分を守ります。73条で不利益扱いは禁止されていますし、会社側には給付金や協力事業所表示の制度もあります。
Q4. 予備自衛官の手当だけなら確定申告はいらない?
給与2か所の合計で判定します。年末調整されない側の給与と副業所得の合計が20万円以下なら所得税の確定申告は不要でもかまいませんが、住民税の申告は必要です。副業があるなら合算して判定してください。
Q5. 現役に戻ったら副業は続けられる?
現役自衛官に戻ると62条・63条がかかります。役員・自営は承認が前提、報酬を受ける職・事業も承認が必要です。続けるなら、再任用の前に承認の見込みを人事担当に確認してください。
まとめ|制限は自衛隊法ではなく「本業」と「税金」にある
予備自衛官の副業は、自衛隊法75条によって62条・63条の外に置かれています。止めているものがあるとすれば、それは本業の勤め先の兼業ルールと、2か所給与+副業所得の確定申告、そして招集に応じる義務との両立の3つです。
動き方としては、①就業規則の兼業条項を確認して人事に伝える、②招集と衝突しにくいストック型・単発型を優先する、③手当と副業所得を合算して申告ラインを毎年確認する——この3つを押さえれば、予備自衛官として社会に貢献しながら副業も進められます。迷ったら「自衛隊法は止めていない。止めるとしたら本業と税金」と思い出せば、判断の順番を間違えません。現役時代の制約との違いは自衛隊員の副業2026完全ガイドと読み比べるとはっきりします。
参考にしている主な一次情報:自衛隊法(昭和29年法律第165号)第61条〜第63条・第73条〜第73条の3・第75条(e-Gov法令検索)/防衛省「予備自衛官等制度」(予備自衛官とは・即応予備自衛官とは、令和8年4月1日現在の処遇)/国税庁「給与所得者で確定申告が必要な人」。
※情報は執筆時点のもので、手当の額や訓練日数は年度により改定されます。最新の条件は防衛省の公式ページと最寄りの地方協力本部でご確認ください。

