「教員がYouTubeやブログで発信するのは副業になるのか」——答えは収益が出るかどうかで変わり、収益が出るなら許可の対象です。公立教員には地方公務員法38条の許可制がかかり、教育公務員特例法17条の特例(教育に関する仕事)が使えるかどうかは内容次第。そして収益の有無にかかわらず、生徒・学校・職務情報を出した時点で別の規律(信用失墜行為の禁止・秘密を守る義務・職務専念義務)に触れます。この記事は、発信の3段階(無収益→収益化→事業化)ごとに線を引きます。教員の副業全体の線引きは教員の副業はどこまでOK?に譲ります。
結論:発信は3段階で線が変わる
| 段階 | 地公法38条(許可) | 教特法17条(特例) | 常にかかる規律 |
|---|---|---|---|
| ①無収益の発信(趣味・授業実践の共有) | 対象外(報酬がない) | — | 33条 信用失墜・34条 秘密・35条 職務専念 |
| ②収益化(広告収入・投げ銭・アフィリエイト) | 許可の対象(報酬を得て事業・事務に従事) | 「教育に関する」と任命権者が認めれば17条で見てもらえる余地。広告収入は営利色が濃く、38条で見られることが多い | 同上+収益化後は「営利活動」としての審査 |
| ③事業化(有料講座・教材販売・企業案件) | 「自ら営利企業を営む」に近づく。最も厳しい | 依頼を受けて教育書を書く等は17条に乗るが、自分で売る形は難しい | 同上+私立なら競業・信用 |
ポイントは、収益化ボタンを押す前が相談のタイミングだということです。収益が発生してからでは「無許可の期間」が始まってしまいます。
段階①:無収益の発信——許可は要らないが、3つの規律はかかる
報酬が出ない発信は、地方公務員法38条の「報酬を得て事業若しくは事務に従事」に当たりません。授業実践の共有、教材の無償公開、趣味の動画は、許可なしでできます。ただし次の3つは常にかかります。
- 信用失墜行為の禁止(33条):教員の職の信用を傷つける内容(生徒・保護者への侮辱、差別的表現、学校への誹謗)は無収益でも処分の対象
- 秘密を守る義務(34条):生徒の個人情報、成績、家庭の事情、職員会議の内容、テスト問題などは出せない。退職後も同様
- 職務専念義務(35条):勤務時間中の撮影・編集・投稿は違反。学校の設備(PC・教室・教材)を使うのも問題
実務上いちばん多い事故は、生徒が写り込む・特定できる発信です。顔が写っていなくても、学校名+学年+時期+出来事の組み合わせで特定されます。授業実践を発信するなら、生徒の作品・発言・写真は本人と保護者の同意なしに出さない、学校名を出さない、が最低ラインです。
段階②:収益化——「報酬」が出た瞬間に許可の対象
広告収入(YouTubeのパートナープログラム、ブログの広告)、投げ銭、アフィリエイト、企業からの案件料——どれも「報酬を得て事業若しくは事務に従事」に当たります。公立教員は任命権者の許可、私立教員は就業規則の手続きが必要です。
17条(教育に関する仕事の特例)は使えるか
教育公務員特例法17条は、「教育に関する他の職・事業・事務」について、本務の遂行に支障がないと任命権者が認めれば、給与を受けてもよいとしています。教育書の執筆や教育団体の講師はこの典型です。一方、広告収入を主目的とするYouTube・ブログは、内容が教育的でも「営利を目的とする事業」として38条で見られることが多く、17条に乗せられるかは任命権者の解釈次第です。迷ったら、収益化の前に教育委員会の担当に「17条で見てもらえるか、38条の許可になるか」を聞くのが早道です。
許可が出やすい設計・出にくい設計
| 出やすい | 出にくい |
|---|---|
| 内容が教科・指導法など教育に関する知識の一般化 | 学校・生徒・同僚の話題が中心 |
| 匿名または本名でも学校名を出さない | 学校名・肩書を前面に出して集客する |
| 勤務時間外・休日に制作、私物の機材 | 勤務時間中の撮影、学校の設備・教材を使用 |
| 収益の規模が小さく、継続的な営業活動を伴わない | 企業案件・商品販売・会員制で事業性が高い |
| 生徒・保護者が視聴者(顧客)にならない | 自校の生徒・保護者に向けた有料コンテンツ |
収益化の申請に書くこと|発信ならではの記載項目
許可申請の様式は自治体・学校法人ごとに違いますが、発信の副業で審査側が見るのは次の項目です。申請書の「内容」欄にこの順で書くと、審査が通りやすくなります。
| 項目 | 書き方の例 | 何を確認させるか |
|---|---|---|
| 媒体と内容 | YouTubeチャンネル「○○」。中学理科の学習法を一般向けに解説。学校・生徒・同僚・保護者に関する内容は扱わない | 教育に関する一般知識か/職務情報を含まないか |
| 収益の形と見込み | 広告収入のみ。月○円程度の見込み。企業案件・商品販売は行わない | 事業性の大きさ(営利企業を営むに当たらないか) |
| 制作の時間と場所 | 休日・勤務時間外に自宅で制作。学校の設備・教材は使用しない | 職務専念義務・公物使用 |
| 名前・肩書の扱い | ハンドルネームで運営。学校名・自治体名・肩書は出さない | 信用・生徒や保護者の視聴の有無 |
| 生徒に関する配慮 | 生徒の映像・作品・発言は一切使用しない。自校の生徒を視聴者として誘導しない | 秘密・信用・利害 |
「授業実践を発信したい」人が押さえる3つの実務
- 同意:生徒の作品・発言・映像を使うなら本人と保護者の同意が要る。同意があっても、学校の方針として外部発信を制限している場合は学校が優先
- 著作権:教科書・問題集・市販教材の転載は、授業での利用(著作権法35条の範囲)と違い、外部への発信では許諾が要る
- 特定の回避:顔を隠しても、学校名+学年+時期+出来事で特定される。「固有名詞を入れない」だけでなく「組み合わせで特定されないか」を投稿前に確認する
段階③:事業化——「営利企業を営む」に近づく
有料講座、教材の継続販売、会員制コミュニティ、企業案件の常態化は、「報酬を得て事務に従事」を超えて「自ら営利企業を営む」に近づきます。公立教員にとって38条で最も厳しく見られる類型で、許可は出にくくなります。17条に乗せられるのは「依頼を受けて教育書・教材を書き、原稿料を受ける」形までで、自分で作って自分で売る形は特例の想定外です。私立教員も、就業規則の「事業の経営」に当たるかが論点になります。
事業化を目指すなら、在職中は段階②までに留め、退職後または休職・転職後に事業化する設計が現実的です。
処分になる形|教員の発信で繰り返される5つ
- 無許可で収益化を続けていた:38条違反。住民税の額の差や、視聴者からの通報で発覚する
- 生徒が特定できる内容を出した:34条・33条。無収益でも処分の対象で、保護者対応・報道に発展しやすい
- 勤務時間中に撮影・投稿した:35条。公用PCの履歴や投稿時刻から立証されやすい
- 学校・同僚・保護者への批判を発信した:33条。匿名でも特定される
- 自校の生徒・保護者に有料コンテンツを売った:信用失墜+利害関係。最も重い
無収益の発信が処分になるのは②③④の型で、収益化が処分になるのは①⑤の型です。「収益化していないから大丈夫」と「許可を取ったから何を出してもいい」はどちらも誤りです。
線の内側で発信するなら|教員向けの順番
- 無収益で始め、内容を「教育に関する一般知識」に限る。生徒・学校名・同僚・保護者を出さない
- 収益化の前に相談する。公立は教育委員会(17条で見てもらえるか、38条の許可か)、私立は人事
- 許可を取ったら、内容・規模・時間を申請の範囲内に保つ。企業案件や商品販売を足すなら再申請
- 事業化は在職中にしない。退職・休職・転職後の設計にする
教育に関する執筆の実績を作りたいなら、クラウドソーシングに「教育系メディアのライター」「教材監修」の募集があります。依頼を受けて書く形は17条に乗せやすく、相場と条件を眺めるだけなら許可も費用も要らないので、ランサーズのようなプラットフォームに登録しておくと、申請書の「内容・報酬」欄を具体的に書けます(受注した時点で許可の対象になるので、受けるのは手続き後に)。[PR]
税金|広告収入は「雑所得」、20万円ルールと住民税
広告収入・投げ銭・アフィリエイトは通常「雑所得」です。給与以外の所得(収入−経費)が年20万円を超えれば所得税の確定申告が必要で、20万円以下でも住民税の申告は必要です。機材・通信費・書籍は経費として按分できます。副業の所得は、勤め先の年末調整では処理されません。1年分の収入と経費を自分で集計することになります。帳簿づけと申告書の作成をまとめて行いたい場合は、弥生のクラウド確定申告ソフトのような会計ソフトを使う方法があります(料金・対応範囲は公式サイトでご確認ください)。[PR]
教員の副業と税金のラインは教員の副業は20万円以下なら申告不要?で整理しています。
よくある質問
Q1. 匿名なら収益化しても許可はいらない?
匿名でも報酬が出れば38条の対象です。匿名は「バレにくい」だけで、許可の要否には関係ありません。発覚すれば無許可として扱われます。
Q2. 授業動画を無料で公開するのは?
報酬がなければ38条の対象外です。ただし生徒が写らない・学校名を出さない・勤務時間外に私物で制作する、の3条件は必要です。教材の著作権(教科書・問題集の転載)にも注意してください。
Q3. 収益化の許可が下りなかったら?
収益化をやめて無収益の発信に戻すか、内容・形を変えて再申請します。不許可のまま収益化を続けるのは、無許可より重く見られます。
Q4. 退職後ならチャンネルを事業化できる?
38条はなくなりますが、34条の秘密を守る義務は退職後も残ります。在職中に知った生徒・学校の情報は退職後も出せません。
Q5. アフィリエイトのリンクを貼るだけでも副業?
成果報酬が発生する仕組みを置いた時点で「報酬を得て事務に従事」に当たりうるため、収益化と同じ扱いで考えてください。実際に報酬が発生する前に相談するのが安全です。
Q6. 教育委員会の研修動画や自治体の広報に出演するのは?
職務として命じられたものは副業ではありません。外部団体から報酬を受けて出演する場合は17条または38条の手続きが要ります。
Q7. 私立教員は?
就業規則の兼業条項に従います。届出制・許可制なら手続きを踏めば可。禁止規定があっても勤務時間外の発信への制約は限定的に解釈されるのが一般的な考え方ですが、学校・生徒・保護者に関わる内容は信用・競業の問題になります。
まとめ|「収益化の前に相談」「生徒・学校を出さない」の2つで線が引ける
教員の発信は、無収益なら許可不要、収益化すれば許可の対象、事業化すれば最も厳しい——この3段階で線が変わります。そして段階に関係なく、生徒・学校・職務情報を出した時点で信用失墜・秘密・職務専念の規律に触れます。内容を教育に関する一般知識に限り、収益化の前に相談し、事業化は在職中にしない。この設計なら、教員でも発信は続けられます。
参考にしている主な一次情報:地方公務員法(昭和25年法律第261号)第29条・第33条〜第35条・第38条/教育公務員特例法(昭和24年法律第1号)第17条(いずれもe-Gov法令検索)/国税庁「給与所得者で確定申告が必要な人」。
※情報は執筆時点のもので、許可の基準は任命権者(自治体)ごとに異なります。実際に動く前に、所属の管理職・教育委員会の担当にご確認ください。

