副業のアルバイト先で怪我をしたら、労災はどうなるのか。本業と副業の移動中に事故に遭ったら。本業と副業の合計の長時間労働で病気になったら——。2020年9月の労災保険法改正で、複数の会社で働く人(複数事業労働者)の労災は、①給付額が全ての勤務先の賃金を合算して計算され、②本業と副業の負荷を合わせて労災かどうかを判断する「複数業務要因災害」が新設され、③副業先への移動も通勤災害の対象になりました。ただし、これは「雇われる副業」の話で、業務委託の副業には労災保険が原則として適用されません(特別加入を除く)。この記事は、労災保険法1条・7条・8条3項を根拠に、副業をする会社員の労災を「副業先での怪我」「本業と副業の間の移動」「合算の長時間労働」「業務委託の場合」「手続」で整理します。
- 結論:雇われる副業なら、副業先の怪我も本業と副業の賃金を合算した額で給付。本業と副業の負荷を合わせた判断もある。業務委託は労災の対象外(特別加入で補える)
- 線①:給付額は「合算」——8条3項
- 線②:本業と副業の間の移動——通勤災害
- 線③:複数業務要因災害——合算の負荷で判断
- 線④:業務委託の副業——労災の対象外
- 給付額の考え方|本業30万円・副業5万円の会社員が副業先で怪我をして1か月休んだ例
- 手続|副業先で怪我をしたとき
- 副業を「届け出る」理由がここにもある
- 業務委託の副業でリスクを下げる
- 税金|労災の給付は非課税
- よくある質問
- まとめ|雇われる副業は「合算」で守られる。業務委託は労災の外——特別加入か保険で補い、届け出て始める
結論:雇われる副業なら、副業先の怪我も本業と副業の賃金を合算した額で給付。本業と副業の負荷を合わせた判断もある。業務委託は労災の対象外(特別加入で補える)
| 場面 | 労災の扱い | 根拠 |
|---|---|---|
| 副業先(雇用)の業務中に怪我 | 業務災害。給付基礎日額は本業+副業の賃金を合算 | 7条1項1号・8条3項 |
| 本業から副業先への移動中の事故 | 通勤災害(就業の場所から他の就業の場所への移動) | 7条2項2号 |
| 本業+副業の長時間労働で脳・心臓疾患、精神障害 | 複数業務要因災害。両方の負荷を合わせて判断 | 7条1項2号 |
| 業務委託の副業中の怪我 | 労災の対象外(労働者でない)。特別加入していれば対象 | 労災保険法の適用は労働者。特別加入は33条以下 |
| 副業先が労災保険に未加入 | 労働者なら給付は受けられる(事業主が未手続でも)。事業主には費用徴収 | 労災保険の強制適用 |
線①:給付額は「合算」——8条3項
労災保険法8条3項は、複数事業労働者の業務災害・複数業務要因災害・通勤災害について、給付基礎日額を「事業ごとに算定した給付基礎日額に相当する額を合算した額」を基礎に算定すると定めています。改正前は、副業先で怪我をすれば副業先の賃金(月数万円)だけで休業補償が計算され、本業を休んでも本業の分は補償されませんでした。改正後は、副業先の怪我でも、本業の賃金を含めた合算額で休業補償・障害補償・遺族補償が計算されます。
実務上の条件は、労災の請求書に「他の事業場で働いていること」「その賃金」を記載することです。書かなければ合算されません。副業先が請求書の記入を手伝う義務はないので、自分で本業の情報を用意してください。
線②:本業と副業の間の移動——通勤災害
7条2項2号は、通勤に「厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動」を含めています。本業の会社から副業先へ直接向かう途中の事故は通勤災害で、この場合の給付は移動先(副業先)の労災保険で処理し、給付基礎日額は合算します。副業先から自宅への帰りも通勤災害です。合理的な経路・方法から逸脱・中断した場合(寄り道)は通勤に当たらなくなる点は通常の通勤災害と同じです。
線③:複数業務要因災害——合算の負荷で判断
7条1項2号の「複数業務要因災害」は、本業だけ・副業だけでは労災の認定基準(脳・心臓疾患の時間外労働の時間数、精神障害の心理的負荷)に達しなくても、両方の負荷を合わせれば達する場合に労災と認める仕組みです。例えば、本業で月60時間・副業で月40時間の時間外労働をしていて脳疾患を発症した場合、合計100時間として認定基準に照らします。
この仕組みは労働者を守る一方で、本業・副業の双方の使用者が「労働時間の把握・健康管理」を求められる根拠にもなっています。副業の届出で労働時間を聞かれるのは、安全配慮(労働契約法5条)とこの労災の認定の両面からです。
線④:業務委託の副業——労災の対象外
労災保険は「労働者」(雇用される人)を対象にしています。クラウドソーシングの執筆・制作、個人事業としての受託は労働者ではないので、作業中の怪我・移動中の事故に労災は適用されません。医療費は健康保険(業務外として扱われる)、休業の補償はなし。
補う方法は、労災保険の特別加入です。2021年以降、ITフリーランス・フードデリバリー等に加え、2024年11月からは「特定受託事業者」(フリーランス法の対象となる業務委託で働く人)が特別加入の対象になり、業務委託で働く人が自分で保険料を払って労災に加入できる範囲が広がりました。副業の業務委託が継続的で、作業中の怪我のリスクがある(制作現場・配送・出張)なら、特別加入団体を通じた加入を検討します。
給付額の考え方|本業30万円・副業5万円の会社員が副業先で怪我をして1か月休んだ例
数字は考え方を示す概算です。
| 改正前(2020年9月より前) | 改正後 | |
|---|---|---|
| 給付基礎日額の基礎 | 副業先の賃金のみ(月5万円) | 本業+副業(月35万円)を合算 |
| 休業補償(給付基礎日額の60%+特別支給金20%=80%) | 月5万円の80%≒4万円 | 月35万円の80%≒28万円 |
| 本業を休んだ分 | 補償されない | 合算額に含まれる |
合算の前提は、請求時に本業の賃金を申告し、本業が証明することです。届け出ていない副業で怪我をした場合、ここで本業に伝わります。
手続|副業先で怪我をしたとき
- 副業先に報告:業務中の怪我は副業先の労災として請求。副業先が「労災は使えない」と言っても、労働者なら給付の対象(事業主の未手続は事業主の問題)
- 請求書に本業の情報を書く:「複数事業労働者」の欄に本業の事業場名・賃金を記載。本業の証明が要る様式もある
- 本業に伝える:本業を休む場合、休業補償は合算額で計算されるので、本業の賃金の証明が要る。届け出ていない副業なら、この時点で本業に伝わる
- 通勤災害:本業→副業先の移動中なら、副業先の労災で請求。経路・時刻・目的を記録
- 労働基準監督署:副業先・本業が協力しない場合は、労基署に直接相談・請求できる
副業を「届け出る」理由がここにもある
無届の副業で副業先の怪我をすれば、労災の請求で本業に伝わり、合算の給付を受けるには本業の協力が要ります。届け出ていれば、本業は労働時間を把握しており、労災の手続も進みやすい。労災の面でも「届け出て始める」が現実的です。雇用の副業の通算・安全配慮は副業の労働時間の通算はいつ変わる?、就業規則の扱いは就業規則の「副業禁止」はどこまで有効?へ。
業務委託の副業でリスクを下げる
労災の対象外である業務委託の副業は、在宅で完結する執筆・制作・事務代行なら作業中の怪我のリスクは小さく、移動・現場作業を伴う案件(撮影・設営・配送)はリスクが大きい。案件を選ぶときに「どこで・どう働くか」を見て、リスクのある形なら特別加入か民間の傷害保険で補います。案件の相場と内容はランサーズのようなクラウドソーシングで把握できます(受注は就業規則の手続を確認してから)。[PR]
税金|労災の給付は非課税
労災保険の休業補償・障害補償・遺族補償は所得税が非課税で、確定申告に含めません。副業先から休業中に支払われる賃金(休業補償とは別)は給与です。副業の所得の申告(20万円ルール・住民税の申告)は通常どおりで、帳簿と申告書を一か所で済ませたい場合は、弥生のクラウド確定申告ソフトのような会計ソフトを使う方法があります(料金・対応範囲は公式サイトでご確認ください)。[PR]
よくある質問
Q1. 副業先が「アルバイトは労災に入っていない」と言う
労災保険は労働者を1人でも雇う事業に強制適用で、アルバイトも対象です。事業主が手続をしていなくても労働者は給付を受けられます。労働基準監督署に相談してください。
Q2. 副業先の怪我で本業を休んだ。本業の給料分は?
休業補償は本業と副業の賃金を合算した給付基礎日額で計算されます(8条3項)。請求書に本業の情報を書き、本業の証明を得てください。
Q3. 自宅から副業先への移動は通勤災害?
住居と就業の場所の往復なので通勤災害です。本業から副業先への移動も7条2項2号で通勤に含まれます。
Q4. 業務委託の副業で作業中に怪我をした
労災の対象外です。健康保険で治療し、休業の補償はありません。継続的に業務委託で働くなら特別加入を検討してください。
Q5. スキマバイト(1日だけの雇用)でも労災は使える?
使えます。1日の雇用でも労働者で、勤務先企業の労災保険の対象です。本業があれば複数事業労働者として合算の対象になります。
Q6. 公務員の副業先での怪我は?
公務員の本業は公務災害補償の制度で、労災保険の対象外です。副業先(民間の雇用)での怪我は副業先の労災保険の対象になりますが、合算の扱いは制度が異なるので労基署・共済組合に確認してください。
まとめ|雇われる副業は「合算」で守られる。業務委託は労災の外——特別加入か保険で補い、届け出て始める
2020年改正後の労災保険は、複数事業労働者について、副業先の怪我でも本業+副業の賃金を合算した給付(8条3項)、本業と副業の負荷を合わせた認定(複数業務要因災害・7条1項2号)、本業から副業先への移動の通勤災害(7条2項2号)を定めています。業務委託の副業は労働者でないので対象外で、2024年11月からの特定受託事業者の特別加入で補えます。労災の請求では本業の情報が要るので、副業は届け出て始める——労災の面からも同じ結論です。副業の労働時間の扱いは副業の労働時間の通算はいつ変わる?をどうぞ。
参考にしている主な一次情報:労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)第1条・第7条・第8条第3項・第33条以下(特別加入)/労働契約法 第5条(いずれもe-Gov法令検索)/厚生労働省「複数事業労働者への労災保険給付 わかりやすい解説」「特定受託事業者の特別加入制度」/国税庁「非課税となる所得」。
※情報は執筆時点のもので、労災の認定は個別の事案で労働基準監督署が判断します。特別加入の対象・手続は特別加入団体・労働局にご確認ください。

