在宅で副業をしている会社員が確定申告で最初に迷うのが、「家賃・電気代・通信費のうち、いくらを経費にしていいのか」です。全額は経費にできず、副業に使った割合(家事按分)だけが経費になります。ところが「何%が正解か」は法律に書いていません。所得税法45条(家事関連費)と同施行令96条は、「業務の遂行上必要」で「その部分を明らかに区分できる」ものに限って経費を認めると定めており、割合は自分で根拠を持って決めるものです。この記事は、所得税法45条・施行令96条を根拠に、在宅副業の経費と家事按分を「経費になるもの・ならないもの」「按分の根拠の作り方」「記録の残し方」「PC・机などの減価償却」で整理します。公務員・教員版は副業の経費はどこまで?公務員・教員の注意へ。
結論:経費は「副業のために使った分」だけ。按分は「時間・面積・使用量」のどれかで根拠を作り、毎年同じ方法で。領収書より「根拠のメモ」が大事
| 費目 | 経費になるか | 按分の根拠の例 |
|---|---|---|
| 家賃(賃貸) | 副業に使う面積・時間の分 | 作業部屋の面積÷総面積(専用なら100%、兼用なら使用時間も掛ける) |
| 持ち家のローン | 元本は不可。利子・固定資産税・減価償却の按分分は可 | 面積按分 |
| 電気代 | 副業の使用分 | 作業時間÷在宅時間、または作業部屋の面積 |
| 通信費(ネット・スマホ) | 副業の使用分 | 使用時間・通信量の割合 |
| PC・モニター・机・椅子 | 副業の使用割合分(10万円以上は減価償却) | 使用時間の割合 |
| ソフト・ツールの月額 | 副業専用なら全額、兼用なら按分 | 用途 |
| 書籍・講座・セミナー | 副業に直接関係するもの | — |
| カフェ代・食費 | 原則不可(食事は生活費)。打合せの飲食は会議費として可 | — |
| スーツ・私服 | 原則不可 | — |
線①:所得税法45条と施行令96条——「区分できる」が条件
所得税法45条1項1号は、家事上の経費とこれに関連する経費(家事関連費)を必要経費に算入しないと定め、施行令96条がその例外を「業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合」のその部分に限っています。つまり、
- 業務の遂行上必要:副業に使っていること
- 明らかに区分できる:副業分と生活分を分ける根拠があること
「何%まで」という上限は条文にありません。根拠があれば50%でも認められ、根拠がなければ10%でも否認され得ます。按分の根拠を持つことが、割合の数字より重要です。
線②:按分の根拠の作り方——3つの方法
①面積按分(家賃・持ち家の経費・電気代)
作業に使う部屋(または机の周りのスペース)の面積÷住居の総面積。専用の部屋なら面積の割合をそのまま、リビングの一角なら面積×使用時間の割合。賃貸契約書の面積と、作業スペースの実測をメモに残します。
②時間按分(電気代・通信費・PC)
1週間の副業の作業時間÷在宅している時間(または1日24時間)。「平日2時間×5日+土日4時間×2日=18時間/週」のように、作業時間の記録(作業ログ・カレンダー)を根拠にします。
③使用量按分(通信費)
スマホ・ネットの通信量のうち副業で使った分。正確な計測は難しいので、時間按分で代える人が多い方法です。
どの方法でも、毎年同じ方法を使うこと(年によって都合よく変えない)と、根拠のメモを申告書と一緒に保存することが、税務調査で説明できる条件です。
按分の計算例|1LDK・在宅で週18時間の執筆副業
数字は考え方を示す例です。
| 費目 | 年額 | 按分の根拠 | 経費 |
|---|---|---|---|
| 家賃 | 96万円 | 作業スペース6㎡÷総面積40㎡=15%、専用でないので使用時間(18h÷在宅時間約100h/週≒18%)を掛けて約3%…実務上は面積15%×時間の係数で約5%程度と置く | 約4.8万円 |
| 電気代 | 12万円 | 作業時間18h÷在宅時間100h=18% | 約2.2万円 |
| ネット回線 | 6万円 | 同18% | 約1.1万円 |
| PC(12万円・副業50%) | 一括償却資産 4万円/年 | 使用割合50% | 2万円 |
| 書籍・ツール(副業専用) | 3万円 | 100% | 3万円 |
| 合計 | — | — | 約13万円 |
家賃の按分は、面積と時間をどう組み合わせるかで幅が出ます。「面積×時間」で小さく見積もるか、「面積のみ」で置くかは、その部屋の使い方(専用に近いか)で決め、決めた方法を毎年使います。
線③:PC・机・椅子——10万円の線と減価償却
- 10万円未満:買った年に全額(按分後の額)を経費に
- 10万円以上20万円未満:一括償却資産として3年で均等に経費化(青色申告なら30万円未満を一括経費にする特例もある)
- 20万円以上:減価償却(PCは法定耐用年数4年)。按分後の額を耐用年数で割って毎年経費に
10万円・20万円の線は取得価額(買った値段そのもの)で判定します(施行令138条・139条)。按分は、その後の経費計上額に掛けます。15万円のPCを副業50%で使うなら、取得価額15万円→一括償却資産(3年均等)または減価償却の対象で、各年の計上額に50%を掛ける、という計算です。「按分後の額で10万円未満だから一括経費」とはなりません。
線④:雑所得と事業所得で「経費の効き方」が変わる
| 雑所得(副業の多く) | 事業所得(帳簿を備え反復継続) | |
|---|---|---|
| 経費の範囲 | 同じ(業務に必要な分) | 同じ |
| 赤字の扱い | 給与と通算できない(切り捨て) | 給与と通算できる |
| 青色申告特別控除 | なし | 最大65万円(複式簿記・電子申告等) |
| 帳簿・書類の保存 | 収入300万円超なら書類保存 | 帳簿の備付け・保存が要件 |
経費が収入を上回る(赤字)年は、雑所得なら切り捨て、事業所得なら給与と通算して税金が戻ります。ただし「副業が赤字続き」で事業所得を主張すると、事業性(営利性・反復継続・帳簿)が問われます。経費を積み上げて赤字を作る設計は、税務上も副業の目的上も筋が悪い形です。
記録の残し方|月1回・5分
- 収入:振込明細・プラットフォームの報酬明細
- 経費の領収書・明細:カード明細・通帳・レシート・サブスクの請求メール。紙は写真で
- 按分の根拠:作業時間の記録(週○時間)、作業スペースの面積。年1回見直してメモ
- 兼用の資産:購入日・金額・使用割合
- 保存:申告書の控えと一緒に、雑所得なら5年(収入300万円超の書類保存)、事業所得なら7年が目安
経費の記録と按分の計算、減価償却の管理をまとめて行いたい場合は、弥生のクラウド確定申告ソフトのような会計ソフトを使う方法があります(料金・対応範囲は公式サイトでご確認ください)。[PR]
経費になる・ならないの判断で迷うもの
| 費目 | 判断 |
|---|---|
| 在宅作業中の飲み物・昼食 | 不可(生活費) |
| 発注者との打合せの飲食 | 可(会議費・交際費)。相手・目的をメモ |
| 取材・納品のための交通費 | 可。日付・目的・経路をメモ |
| 資格試験の受験料・講座 | 副業に直接必要なら可。一般的な教養・本業のための学習は不可 |
| スマホの本体代 | 按分(使用割合)。10万円以上は減価償却 |
| エアコン・照明 | 作業部屋専用なら按分可。住居全体のものは面積按分の範囲で |
| 引越し費用 | 原則不可(作業部屋確保が主目的でも生活の移転) |
副業の形で「経費の多さ」が違う
執筆・事務代行は経費が少なく(通信費・書籍程度)、デザイン・動画編集はソフト・機材、物販は仕入・送料・手数料が大きくなります。経費が多い副業は帳簿の手間も多い一方、所得を抑えやすい。案件を選ぶとき、報酬だけでなく経費の構造(仕入があるか・機材が要るか)も見ておくと、手取りの見通しが立ちます。案件の相場はランサーズのようなクラウドソーシングで把握できます(受注は就業規則の手続を確認してから)。[PR]
よくある質問
Q1. 家賃の按分は何%までなら安全?
上限の数字はありません。作業スペースの面積と使用時間で計算した割合を、根拠のメモと一緒に保存してください。「とりあえず30%」のような根拠のない数字が問題になります。
Q2. 副業の所得が20万円以下なら経費の記録は不要?
20万円以下かどうかを判断するのに経費の計算が要ります。住民税の申告にも経費は使います。記録は必要です。
Q3. 領収書をなくした
カード明細・通帳・注文履歴で支出の証拠になります。何もなければ経費にしないのが安全です。
Q4. 本業の会社から支給されたPCを副業に使ったら?
会社の資産を私的な副業に使うこと自体が就業規則・情報管理の問題です。経費以前に使わないでください。
Q5. 副業を始める前に買ったPCは?
副業に使い始めた時点の価値(取得価額から経過年数分を引いた額)を基礎に、使い始めた年から按分して計上できます。購入日・金額の記録を残してください。
Q6. 家族名義の家賃・光熱費は?
生計を一にする家族が払っている費用は、本人が払ったものとして経費にできます(按分の範囲で)。
まとめ|「何%」ではなく「根拠」。毎年同じ方法で按分し、メモを残す
在宅副業の経費は、所得税法45条・施行令96条により「業務の遂行上必要で、その部分を明らかに区分できる」分だけが認められます。家賃・電気代・通信費・PCは面積・時間・使用量のいずれかで按分し、根拠のメモを残して毎年同じ方法で。10万円の線と減価償却、雑所得と事業所得の違いを押さえ、月1回の記録で1月の申告準備を軽くする。経費は「積み上げるもの」ではなく「説明できるもの」です。説明できる経費だけを計上すれば、税務調査を恐れる必要はありません。確定申告の全体は副業の確定申告、1月にやることをどうぞ。
参考にしている主な一次情報:所得税法(昭和40年法律第33号)第37条(必要経費)・第45条(家事関連費等の必要経費不算入)/所得税法施行令 第96条(家事関連費)・第138条(少額の減価償却資産)・第139条(一括償却資産)/減価償却資産の耐用年数等に関する省令(いずれもe-Gov法令検索)/国税庁「必要経費の知識」「やさしい必要経費の知識」「給与所得者で確定申告が必要な人」。
※情報は執筆時点のもので、個別の費用が経費になるかは事実関係によります。判断に迷うものは税務署・税理士にご確認ください。

