自衛官は50代で定年を迎える若年定年制のため、「退職後に何で稼ぐか」が現役のうちから現実の問題になります。在職中の副業は承認制(自衛隊法62条・63条)ですが、退職後は自由——ただし「退職前の動き方」と「退職後2年間の動き方」には、自衛隊法の再就職規制がかかります。この記事は自衛隊法65条の2〜65条の4を根拠に、退職前にしてよいこと・してはいけないこと、退職後に残る制限、そして副業を退職後の収入に育てる順番を整理します。在職中の線引きは自衛官の副業はどこから規則違反?、承認の取り方は申請の通し方に分けてあります。
結論:退職後の副業に制限はない。制限があるのは「求職の仕方」と「古巣への働きかけ」
| 時期 | 規制 | 根拠 | 中身 |
|---|---|---|---|
| 在職中 | 副業は承認制 | 自衛隊法62条・63条 | 役員・自営、報酬を受ける職・事業は防衛大臣(委任先)の承認が要る |
| 在職中 | 利害関係企業等への求職の規制 | 自衛隊法65条の3 | 職務に利害関係のある企業等に対し、離職後の地位を目的として自分の情報を提供したり、地位を要求・約束したりしてはならない(例外あり) |
| 在職中 | 他の隊員の再就職あっせんの規制 | 自衛隊法65条の2 | 営利企業等に対し、他の隊員・元隊員を就職させる目的で情報提供・依頼をしてはならない。若年定年等隊員への就職援助(援護)は例外 |
| 退職後2年間 | 古巣への働きかけの規制 | 自衛隊法65条の4 | 再就職先の契約・処分に関する事務について、離職前5年間に在職した組織の隊員に対し、職務上の行為を要求・依頼してはならない |
| 退職後 | 副業・事業の制限 | — | なし。62条・63条は隊員でなくなった時点で外れる |
つまり、退職後に自分で事業を始める・複数の仕事を掛け持ちすることは自由です。規制がかかるのは、在職中に取引先へ就職活動をすることと、退職後に古巣へ営業をかけることの2点です。
条文で確認する|再就職規制の3本
65条の3:在職中の求職の規制
隊員は、利害関係企業等(営利企業等のうち隊員の職務に利害関係を有するものとして政令で定めるもの)に対し、離職後にその企業やその子法人の地位に就くことを目的として、自分に関する情報を提供したり、地位に関する情報の提供を依頼したり、地位に就くことを要求・約束したりしてはならない、と定めています。2項で適用除外が置かれていますが、原則は「職務で関わる取引先に、在職中に就職活動をしない」です。調達・契約・監督に関わる隊員ほど、この条文の射程に入ります。
65条の2:他の隊員についての依頼等の規制
隊員は、営利企業等に対し、他の隊員をその離職後に、または元隊員を、その企業等の地位に就かせることを目的として、情報を提供したり依頼したりしてはならない、と定めています。ただし2項1号で、就職援助の事務を処理する組織に属し防衛大臣が指定する隊員が、若年定年等隊員の就職援助を目的として行う場合は適用除外です。自衛隊の「援護」制度が合法に動くのはこの例外によります。逆に言えば、援護担当以外の隊員が、先輩・後輩の就職を企業に頼む行為はこの条文に触れます。
65条の4:再就職者による依頼等の規制
離職後に営利企業等の地位に就いた元隊員(再就職者)は、離職前5年間に在職していた局等組織に属する隊員に対し、防衛省とその企業等との契約や処分に関する事務で離職前5年間の職務に属するものについて、離職後2年間、職務上の行為をするように・しないように要求・依頼してはならない、と定めています。再就職先が防衛省と取引のある企業なら、退職後2年間は古巣の部隊に営業をかけられない、ということです。
「退職後の副業」に置き換えて読む|何が自由で、何が残るか
| 退職後にやりたいこと | 自衛隊法の規制 | 見立て |
|---|---|---|
| 執筆・講演・防災や安全管理の指導で報酬を得る | なし | ◎ 在職中は承認が要ったものが、退職後は自由 |
| 自分で事業(個人事業・会社)を始める | なし | ◎ 62条の「自営」は退職で外れる |
| クラウドソーシングで案件を受ける、複数の仕事を掛け持ちする | なし | ◎ 労働時間の通算(労基法38条)は雇われる仕事同士で残る |
| 防衛省と取引のある企業に再就職する | 65条の3(在職中の求職)・65条の4(退職後2年の働きかけ) | ○ 再就職自体は可。在職中の就職活動の仕方と退職後2年の営業先に制限 |
| 古巣の部隊に自分の事業の売り込みをする | 65条の4(再就職先が営利企業等の場合) | △ 離職後2年・離職前5年の組織・契約等事務に関わるものは不可 |
| 在職中に取引先へ「退職後に雇ってほしい」と伝える | 65条の3 | ✕ 利害関係企業等なら原則禁止。援護の手続きを通す |
| 後輩の再就職を自分の会社で引き受け、在職中の同僚に声をかけてもらう | 65条の2 | ✕ 援護担当以外の隊員による依頼は不可 |
退職前にできること|「承認がいらない範囲」で退職後の土台を作る
退職後は自由でも、退職してから動き始めると収入の空白が生まれます。在職中に承認なしでできる準備は次のとおりです(線引きの詳細はこちら)。
- 学習と作品づくり:報酬が発生しない活動は63条の射程外。退職後に売るためのポートフォリオ(文章・動画・教材・資格)を在職中に作っておく
- 資産運用:事業でも職でもない。退職金の運用設計も在職中に
- 案件の相場を知る:クラウドソーシングに登録して募集を眺めるだけなら報酬は発生しない。ランサーズのようなプラットフォームで、自分の経験(防災・安全管理・体力づくり・整備・通信など)がどんな案件に結びつくかを把握しておく(在職中に受注すると63条の承認の対象になるので、受けるのは退職後か承認後に)[PR]
- 援護制度を使う:若年定年等隊員には65条の2の例外として就職援助の仕組みがある。再就職と副業を組み合わせる設計は、援護担当に相談しながら進める
- 承認を取って単発の講演・執筆を始める:退職後の顧客・実績づくりとして最も効く。承認の通し方は申請の通し方へ
退職までの逆算カレンダー|「何年前に何をするか」
| 退職までの時期 | やること | 規制との関係 |
|---|---|---|
| 3〜5年前 | 退職後に売る技能を決め、学習と作品づくりを始める(報酬なし)。資産運用の設計 | 報酬がなければ63条の外。求職規制(65条の3)にも当たらない |
| 2〜3年前 | 承認を取って単発の講演・執筆を始める。援護担当に退職後の希望(再就職か独立か、併用か)を伝える | 63条の承認ルート。援護は65条の2の例外 |
| 1年前 | 援護を通した再就職活動。利害関係企業等への個人的な就職活動はしない。副業の顧客・実績を整理する | 65条の3(在職中の求職規制)を意識する時期 |
| 退職直後〜2年 | 副業を本格展開。再就職先が防衛関連なら古巣への営業は避ける。確定申告の体制を作る | 65条の4(退職後2年の働きかけ規制) |
| 退職2年後〜 | 65条の4の期間が明ける。事業の拡大・掛け持ちの最適化 | 秘密を守る義務(59条)は引き続き残る |
ポイントは、「報酬が出ない準備」は何年前からでもできること、そして「取引先への就職活動」だけは在職中にしないことの2つです。退職後の収入の柱を「在職中に作った作品・実績」に置いておくと、再就職規制の影響を受けずに済みます。
退職後の最初の1年|収入の形と税金
退職後に複数の収入源を持つ元自衛官は多く、形は「再就職先の給与+副業の報酬」「年金(退職後の公的年金・若年定年退職者向けの給付)+事業所得」のように混ざります。税金の見方は次のとおりです。
- 給与+副業(雑所得・事業所得):給与以外の所得が年20万円を超えれば所得税の確定申告。20万円以下でも住民税の申告は必要
- 複数の給与:年末調整されない側の給与収入と他の所得の合計が20万円を超えれば確定申告
- 事業を始めた場合:開業届・青色申告の選択で控除が変わる。退職した年は退職所得の申告(退職所得の受給に関する申告書を出していれば通常は不要)も確認
退職後の所得は、どこも年末調整をしてくれません。1年分の収入と経費を自分で集計することになります。帳簿づけと申告書の作成をまとめて行いたい場合は、弥生のクラウド確定申告ソフトのような会計ソフトを使う方法があります(料金・対応範囲は公式サイトでご確認ください)。[PR]
規制に触れた場合に何が起きるか
65条の2〜65条の4の違反は、自衛隊法の罰則・過料の対象になるものがあり、在職中の隊員であれば懲戒(46条)の対象にもなります。退職後の元隊員についても、違反行為の調査と公表の仕組み(65条の5以降)が置かれています。「退職したから関係ない」とはならず、再就職先の企業にも影響が及ぶのが再就職規制の特徴です。在職中の求職と退職後の営業の2点だけは、援護担当に手順を確認してから動いてください。
よくある質問
Q1. 退職後すぐに防衛関連企業に入ってもいい?
再就職自体は可能です。ただし在職中にその企業へ就職活動をすることは65条の3で制限され(利害関係企業等の場合)、退職後2年間は65条の4で古巣への働きかけが制限されます。援護制度を通した再就職なら、手続きの中でこれらが整理されます。
Q2. 退職後に始めた事業で、現役時代の部隊に営業してもいい?
再就職先(自分の事業を含む営利企業等)の契約・処分に関する事務について、離職前5年間に在職した組織の隊員に職務上の行為を要求・依頼することは、離職後2年間できません(65条の4)。2年経過後も、部隊の調達は公的な手続きで行われるので、個人的な働きかけは避けるのが基本です。
Q3. 同期や後輩を自分の会社に誘うのは?
自分(元隊員)が直接誘うことは65条の2の対象ではありませんが、在職中の隊員に「後輩を紹介して」と依頼する形は、その隊員側が65条の2に触れます。援護の窓口を通す形にしてください。
Q4. 退職後も秘密保持や服務の義務は残る?
自衛隊法上の秘密を守る義務は退職後も残ります(59条)。副業・事業で在職中に知った情報を使うことはできません。
Q5. 予備自衛官になったら副業に制限がつく?
つきません。自衛隊法75条で62条・63条は予備自衛官に適用されません。詳しくは予備自衛官は副業していい?へ。
まとめ|退職後は自由。縛られるのは「在職中の就活」と「2年間の古巣営業」
自衛官の副業は、在職中は承認制、退職後は自由です。自衛隊法が退職まわりで縛っているのは、在職中に利害関係企業等へ就職活動をすること(65条の3)、他の隊員の就職を企業に依頼すること(65条の2・援護は例外)、退職後2年間に古巣へ働きかけること(65条の4)の3点だけ。在職中は承認不要の範囲で土台を作り、承認を取って単発の実績を積み、退職後に本格展開する——この順番が、規制に触れずに退職後の収入を作る現実的な線です。全体像は自衛隊員の副業2026完全ガイド、退職後の収益化ルートは自衛官の副業完全ガイド(在職中の準備×退職後独立)をどうぞ。
参考にしている主な一次情報:自衛隊法(昭和29年法律第165号)第59条・第62条・第63条・第65条の2〜第65条の4・第75条(e-Gov法令検索)/国税庁「給与所得者で確定申告が必要な人」。
※情報は執筆時点のもので、利害関係企業等の範囲や援護の手続きは政令・防衛省令と所属の運用によります。実際に動く前に、所属の援護担当・人事担当にご確認ください。

