保育士の副業で最も「資格がそのまま活きる」のがベビーシッター・一時預かり・ファミリーサポートです。一方で、個人でベビーシッターをするには認可外保育施設(居宅訪問型)としての届出が必要であること、園の保護者から直接依頼を受ける形は園が最も嫌う形であること、事故時の責任と保険の問題があることは、あまり知られていません。この記事は、児童福祉法59条の2(認可外保育施設の届出)・18条の21〜22(信用失墜・秘密保持)・地方公務員法38条を根拠に、保育士が「子どもを預かる副業」をするときの線を「届出・本業・資格・責任」の4本で整理します。副業の可否全般は保育士の副業はどこまでOK?、発覚の経路は保育士の副業はバレる?へ。
結論:シッター会社に雇われる形が最も線が少ない。個人で受けるなら届出・保険・「園の保護者は受けない」の3つ
| 形 | 届出(児福法59条の2) | 本業側 | 責任・保険 |
|---|---|---|---|
| ベビーシッター会社・マッチング事業者に登録して働く(雇用・業務委託) | 事業者側が届出済み(事業者の責任) | 私立=就業規則の届出/公立=38条の許可 | 事業者の保険の範囲を確認 |
| 個人で直接依頼を受けてシッターをする | 自分が「認可外保育施設(居宅訪問型)」として都道府県に届出 | 同上(「自ら営利企業を営む」として公立は許可が出にくい) | 自分で賠償責任保険に加入 |
| 市町村のファミリー・サポート・センターの援助会員 | 市町村事業なので個人の届出は不要 | 報酬(謝礼)があれば公立は許可対象。私立は就業規則 | センターの補償保険の範囲 |
| 他園・一時預かり事業所でパート | 事業所側の認可・届出 | 同上+労働時間の通算 | 事業所の保険 |
| 勤務園の保護者から直接依頼 | 個人の届出が必要 | 園が最も嫌う形。禁止規定を置く園もある | 自分の保険 |
線①:個人のベビーシッターは「認可外保育施設」として届出が必要
児童福祉法59条の2は、保育を業務とする施設で認可を受けていないもの(認可外保育施設)の設置者に、事業開始から1か月以内の都道府県知事への届出を義務づけています。かっこ書きで「少数の乳児又は幼児を対象とするものその他の内閣府令で定めるものを除く」とありますが、内閣府令(児童福祉法施行規則)の改正により、居宅訪問型(ベビーシッター)として個人で保育を行う者も届出の対象とされています。届け出ると、都道府県の指導監督の対象になり、認可外保育施設指導監督基準に沿った運営が求められます。
シッター会社やマッチング事業者に登録して働く場合は、事業者が届出をしており、個人は事業者の管理下で働く形です。個人で直接依頼を受けるなら、自分が届出をすることになります。無届で個人シッターを続けることは、児童福祉法上の問題であり、事故時に「無届の事業者」として扱われます。
線②:本業側——私立は就業規則、公立は38条。「自ら営む」は重い
- 私立保育士:就業規則の副業規定(届出制・許可制・禁止)に従う。シッター会社に登録する形は届出で済むことが多いが、「園の保護者との私的契約」を明示的に禁じる園がある
- 公立保育士:地方公務員法38条の許可が必要。シッター会社に雇われる形は「報酬を得て事務に従事」、個人で受ける形は「自ら営利企業を営む」に当たり、後者は許可が出にくい
- 労働時間の通算:他園・一時預かり事業所・シッター会社に雇われる形は、労働基準法38条で本業と労働時間が通算される。業務委託(マッチング型の多くはこちら)なら通算なし
線③:資格の規律——園の保護者から受けることの何が問題か
児童福祉法18条の22は、保育士が業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならないと定め(退職後も)、18条の21は信用を傷つける行為を禁じています。勤務園の保護者から直接シッターの依頼を受けると、
- 園で知った家庭の事情・子どもの発達の情報を私的な契約で使う形になる(18条の22)
- 特定の保護者と私的な契約関係を持つことで、園での公平な対応が疑われる(信用の問題)
- 事故が起きたとき、園と私的契約のどちらの責任かが曖昧になり、園を巻き込む
園がこの形を禁じるのは、副業そのものではなく、この3点のためです。子どもを預かる副業をするなら、勤務園の保護者・園の商圏の外でが原則です。
線④:事故の責任と保険
子どもを預かる副業は、他の副業と違って事故のリスクが直接的です。
- シッター会社・マッチング事業者に登録:事業者の賠償責任保険の範囲を確認する。業務委託型では「保険は事業者が用意、ただし本人の過失は求償」という形もある
- 個人で受ける:自分で保育事業者向けの賠償責任保険に加入する。届出をしていないと加入できない保険が多い
- ファミリー・サポート・センター:センターの補償保険があるが、範囲は市町村ごと
- 本業への影響:副業先で事故が起きれば、本業では「無届」と「信用」の問題として扱われる。届け出て始めることは、事故時の自分の立場を守ることでもある
保育士向けの順番|線が少ない形から始める
- 就業規則/許可基準を読む。「保護者との私的契約」の禁止規定の有無を確認
- シッター会社・マッチング事業者に登録する形から。届出・保険は事業者側。本業には届出・許可
- 勤務園の保護者・商圏の外で受ける設定にする(事業者のマッチングで地域を指定できる場合は離れた地域に)
- 園の情報を一切使わない。シッター先で知ったことも園で話さない
- 個人で受ける段階に進むなら、59条の2の届出→賠償責任保険→本業の許可(公立は「自ら営む」として再申請)の順
仕分け表|預かる副業の5つの形を「線の数」で比べる
| 形 | 個人の届出 | 保険の用意 | 本業の手続 | 時間の通算 | 園の保護者との距離 |
|---|---|---|---|---|---|
| シッター会社に雇用で登録 | 不要 | 会社 | 届出/許可 | あり | 地域指定で離せる |
| マッチング事業者に業務委託で登録 | 不要(事業者が届出) | 事業者+本人確認 | 届出/許可 | なし | 地域指定で離せる |
| ファミサポ援助会員 | 不要 | センター | 届出/許可 | なし(謝礼) | 市町村内=近い。依頼を選べる |
| 他園・一時預かりでパート | 不要 | 事業所 | 届出/許可 | あり | 近隣園は避ける |
| 個人で直接受ける | 必要 | 自分 | 届出/許可(公立は困難) | なし | 自分で線を引く |
線が少ないのは上の2つ、線が多いのは最後の1つです。最初から個人で受けるより、事業者に登録して慣れ、個人で受ける必要が出た段階で届出と保険を整える順番が現実的です。
子どもを「預からない」保育士の副業
預かる副業は責任と線が多い分、単価は高めです。一方、保育・子育ての知識を活かした執筆・監修・教材づくり・手遊びや製作の動画は、預かる責任がなく、労働時間の通算もなく、場所を持たないので園の商圏の問題も起きません。案件の相場はランサーズのようなクラウドソーシングで「保育 記事」「子育て 監修」などと検索すると把握できます(受注は届出・許可の後に)。[PR]
税金|報酬の形で変わる
シッター会社に雇われれば給与所得(2か所給与)、マッチング型の業務委託や個人で受ける報酬は雑所得(または事業所得)、ファミサポの謝礼は雑所得です。給与以外の所得が年20万円を超えれば所得税の確定申告、20万円以下でも住民税の申告が必要です。個人で届出をして事業として行うなら、開業届と青色申告の選択肢があります。給与と業務委託が混ざる年の帳簿と申告書を一か所で済ませたい場合は、弥生のクラウド確定申告ソフトのような会計ソフトを使う方法があります(料金・対応範囲は公式サイトでご確認ください)。[PR]
よくある質問
Q1. 知人の子どもを時々預かって謝礼をもらう程度でも届出が要る?
「業務として」保育を行うかどうかで判断されます。反復継続して報酬を受けるなら業務に当たり得ます。線引きは都道府県の担当窓口で確認してください。
Q2. マッチングアプリで登録するだけなら、本業に届けなくていい?
登録だけで報酬が発生しなければ副業ではありません。ただし公立で、登録時に「事業者との契約」を結ぶ形なら、その時点で人事に相談しておくと後が楽です。最初の依頼を受ける前に届出・許可を済ませてください。
Q3. 退職した園の元保護者からの依頼は?
退職後は本業側の規定はなくなりますが、18条の22の秘密保持は退職後も続きます。在職中に知った情報を使わない範囲なら可能です。
Q4. 公立保育士が個人でシッターをするのは無理?
「自ら営利企業を営む」に当たり、許可のハードルは高いです。シッター会社に雇われる形で「報酬を得て事務に従事」として申請するほうが通りやすい形です。
Q5. ファミリー・サポートの援助会員は副業?
謝礼(報酬)を受けるなら、公立は38条の許可対象、私立は就業規則の届出対象です。市町村の事業なので個人の届出(59条の2)は不要で、センターの補償保険の範囲で活動できます。
まとめ|「雇われる形→商圏の外→情報を使わない→届出と保険」の順
保育士がベビーシッター・一時預かりの副業をするなら、事業者に登録する形が届出・保険の面で最も線が少なく、勤務園の保護者・商圏の外で受け、園の情報を使わない。個人で受ける段階では児童福祉法59条の2の届出と賠償責任保険が要り、公立は「自ら営む」として許可のハードルが上がります。預かる責任を負わない執筆・監修・教材という出口もあります。線引きの全体像は保育士の副業はどこまでOK?をどうぞ。
参考にしている主な一次情報:児童福祉法(昭和22年法律第164号)第18条の21・第18条の22・第59条の2/児童福祉法施行規則(認可外保育施設の届出の範囲)/地方公務員法(昭和25年法律第261号)第38条/労働基準法(昭和22年法律第49号)第38条(いずれもe-Gov法令検索)/こども家庭庁「認可外保育施設指導監督基準」/国税庁「給与所得者で確定申告が必要な人」。
※情報は執筆時点のもので、届出の範囲・手続は都道府県、就業規則・許可基準は園・自治体ごとに異なります。実際に動く前に、園長・所属の人事担当と都道府県の担当窓口にご確認ください。

