薬剤師の副業で「他店で調剤する」形は、管理薬剤師なら薬機法7条4項で原則不可、派遣なら派遣法の制限、雇用なら労働時間の通算——と線が多い形でした。これに対して、医薬品・健康分野の記事監修・執筆・講師・資料作成(業務委託)は、管理薬剤師でもでき、派遣法も労働時間の通算も関係なく、本業側の許可・届出も通りやすい形です。この記事は、薬剤師の執筆・監修の副業を「薬機法7条4項の射程」「本業側の規定」「薬機法・景表法の広告規制との関係」「秘密漏示罪」「税金」の5本で整理します。副業の可否全般は薬剤師の副業はどこまでOK?、派遣・単発は薬剤師の派遣・単発バイトは副業にできる?へ。
結論:執筆・監修は「薬事に関する実務」ではないので管理薬剤師も可。線は「広告規制に加担しない」「患者情報を使わない」「本業の許可・届出」の3本
| 形 | 薬機法7条4項(管理薬剤師) | 派遣法・労働時間 | 本業側 |
|---|---|---|---|
| 医薬品・健康記事の監修 | 対象外(薬事の実務ではない) | 関係なし(業務委託) | 許可・届出(通りやすい) |
| 医療系メディア・製薬企業向けの執筆・資料作成 | 対象外 | 関係なし | 同上。本業の取引先(卸・メーカー)は利害関係に注意 |
| 薬学生・登録販売者向けの講師・教材作成 | 対象外 | 関係なし(雇用なら通算) | 同上 |
| サプリ・健康食品の広告に「薬剤師監修」として名前を出す | 対象外 | 関係なし | 薬機法66条・68条、景表法の問題に加担するリスク |
| 他店で調剤・服薬指導 | 管理薬剤師は✕ | 派遣の制限・通算あり | 許可が出にくい |
線①:薬機法7条4項は「薬事に関する実務」を縛る——執筆は対象外
薬機法7条4項は、薬局の管理者が「その薬局以外の場所で業として薬局の管理その他薬事に関する実務に従事する者であってはならない」と定めています(都道府県知事の許可がある場合を除く)。「薬事に関する実務」は、他店での調剤・服薬指導・医薬品の販売・管理といった業務を指し、記事の監修・執筆・講師は「薬事に関する実務」には当たらないと解されています。管理薬剤師が副業をするなら、執筆・監修が現実的にほぼ唯一の形です。
線②:本業側——公立は38条、民間は就業規則。利害関係に注意
- 公立病院の薬剤師:地方公務員法38条の許可。執筆・講演は許可の通りやすい類型
- 民間薬局・病院の薬剤師:就業規則の副業規定(届出制・許可制)。「同業他社での就労」の規定は執筆には当たらないのが通常
- 利害関係:本業の取引先(医薬品卸・メーカー)から執筆・講演の依頼を受ける形は、本業の調達・採用との関係で利害関係が疑われる。公立は許可が出にくく、民間も届出時に確認される。取引先以外の発注者を選ぶか、本業に開示して判断を仰ぐ
線③:広告規制——「薬剤師監修」の名前を貸す前に
薬剤師の執筆・監修で最も注意が要るのは、本業側の規定ではなく広告規制です。
- 薬機法66条:医薬品・医薬部外品・化粧品・医療機器等について、虚偽・誇大な広告を「何人も」してはならない(1項)。そして2項は「効能・効果について、医師その他の者がこれを保証したものと誤解されるおそれがある記事」を1項の違反に当たるものと明記している。「薬剤師監修」の表示が効能の保証と受け取られる形は、まさにこの2項の問題。68条は承認前の医薬品等の広告の禁止
- 景品表示法:優良誤認・有利誤認の表示の禁止(事業者に対する規制だが、監修者として表示の根拠に関与すれば信用の問題)
- 健康増進法:食品の健康保持増進効果についての虚偽誇大表示の禁止
サプリ・健康食品・化粧品の記事で「薬剤師監修」として名前を出し、その記事が医薬品的な効能(「治る」「改善する」)をうたっていれば、薬機法66条の「何人も」の規制に監修者も関わり得ます。実際の責任の所在は事案によりますが、信用(公務員なら33条、民間でも薬剤師としての信用)の問題は確実に生じます。監修を受けるときは、
- 記事の効能表現が医薬品的でないか(食品・化粧品で「効く」「治る」と書いていないか)を自分で確認する
- 根拠(添付文書・公的機関の資料)のない記述には名前を貸さない
- 修正を求めて通らなければ監修を降りる。降りた案件に名前が残っていないか、公開後に確認する
線④:秘密漏示罪——副業で患者情報を使わない
刑法134条1項は、薬剤師が正当な理由なく業務上知り得た人の秘密を漏らすことを処罰します(秘密漏示罪・親告罪)。執筆で本業の患者の服薬状況・病名・家庭の事情を使う、症例を特定できる形で書く、といった形は刑事責任の問題です。公立なら地方公務員法34条も重なります。書けるのは一般化した知識と公開情報までです。
執筆・監修の副業を組む手順
- 本業の許可・届出:公立は38条の許可申請、民間は就業規則の届出。「発注者は本業の取引先ではない」「勤務時間外に在宅で行う」「患者情報を使わない」を明記
- 案件の相場を把握する:医薬品・健康分野の記事監修・執筆は、ランサーズのようなクラウドソーシングで「薬剤師 監修」「医薬品 記事」などと検索すると、単価と求められる要件(免許の提示・実名の可否)が分かる(受注は許可・届出の後に)[PR]
- 実名・所属の扱いを決める:監修は実名が求められることが多い。所属(薬局名・病院名)を出すかは本業の許可条件で確認。「薬剤師・調剤薬局勤務○年」程度の一般化した表記が安全
- 広告規制のチェックを習慣にする:効能表現・根拠の有無を納品前に確認
- 帳簿をつける:報酬・源泉徴収・経費(書籍・文献データベース・通信費)
「書く・監修する」側として登録できるサービスもあります。みんなの記事監修は、資格を持つ専門家として登録し、記事監修の依頼を受ける形のサービスで、登録時に本人確認と資格証の確認があります。本業の許可・届出が必要な立場の方は、登録の前に本業側の手続きを済ませてください。報酬や依頼の条件は変わることがあるため、最新の内容は公式サイトでご確認ください。[PR]
税金|監修料・原稿料は源泉徴収される。雑所得で申告
原稿料・監修料・講演料は所得税法204条の源泉徴収の対象で、10.21%が引かれて振り込まれます(講演料・原稿料の源泉徴収の仕組みは公務員でも民間でも同じ)。経費を引いた所得が年20万円を超えれば所得税の確定申告、20万円以下でも住民税の申告が必要。源泉徴収分は確定申告で精算され、還付になることもあります。帳簿と申告書を一か所で済ませたい場合は、弥生のクラウド確定申告ソフトのような会計ソフトを使う方法があります(料金・対応範囲は公式サイトでご確認ください)。[PR]
仕分け表|薬剤師の「書く・教える」副業
| 案件 | 管理薬剤師 | 広告規制の注意 | 許可の通りやすさ |
|---|---|---|---|
| 医薬品の一般向け解説記事 | 可 | 添付文書の範囲で書く | 高い |
| 健康食品・サプリの記事監修 | 可 | 医薬品的効能を書かせない。降りる判断を持つ | 中(信用の観点で確認される) |
| 製薬企業の社内資料・研修資料 | 可 | 本業の取引先なら利害関係 | 中 |
| 薬学生・登録販売者向け講師 | 可(雇用なら通算) | — | 高い |
| 服薬相談のオンライン回答(個別) | 「薬事の実務」に当たる可能性 | 個別の服薬指導は薬局の業務 | 低い |
最後の「個別の服薬相談」は、一般的な情報提供を超えて個別の患者に服薬指導をする形だと「薬事に関する実務」に近づきます。執筆・監修の副業は「一般向けの情報」に限る、が線です。
よくある質問
Q1. 管理薬剤師だが、執筆なら本当に都道府県の許可は要らない?
7条4項の許可は「薬局以外の場所で薬事に関する実務に従事する」場合のものです。執筆・監修は薬事の実務ではないので対象外です。本業(開設者)の就業規則の届出・許可は別途必要です。
Q2. 「薬剤師監修」の表示は、記事の内容に責任を負うことになる?
法的責任の所在は事案によりますが、虚偽・誇大な広告に監修者として関与すれば、薬機法66条の「何人も」の規制と信用の問題が生じます。内容を確認し、直らなければ降りる判断を持ってください。
Q3. 本業の薬局の取引先メーカーから講演を頼まれた
利害関係の問題です。公立は許可が出にくく、民間も本業に開示して判断を仰いでください。本業の採用・調達に関わる立場なら断るのが安全です。
Q4. 匿名で書くなら患者の話を書いてもいい?
匿名でも、患者が特定できる形なら刑法134条の問題です。一般化した知識に限ってください。
Q5. 監修料の相場は?
記事の長さ・分野・実名の有無で幅があり、ここでは数字を書きません。クラウドソーシングの募集や医療系メディアの監修者募集ページで、単価と条件(免許証の提示・顔写真の可否)を複数比較してから受けてください。安い案件ほど効能表現が強い傾向があるので、単価より内容の確認を優先します。
Q6. 登録販売者の副業も同じ?
登録販売者には7条4項のような他店勤務の制限はありませんが、店舗管理者の場合は薬機法28条4項に同様の規定(店舗以外の場所で薬事に関する実務に従事しない)があります。執筆・監修は同じく実務に当たらず、広告規制の注意も同じです。
まとめ|管理薬剤師でもできる唯一の形。守るのは「広告に加担しない・患者情報を使わない・許可を先に」
薬剤師の執筆・監修・講師は、薬機法7条4項の「薬事に関する実務」に当たらないので管理薬剤師でも可能で、派遣法・労働時間の通算も関係なく、本業側の許可・届出も通りやすい形です。注意するのは、薬機法66条・景表法・健康増進法の広告規制に「薬剤師監修」として加担しないこと、刑法134条・地公法34条の患者情報を使わないこと、本業の取引先からの依頼は利害関係として扱うこと。一般向けの情報提供に限り、許可・届出を先に通せば、薬剤師の副業で最も線の少ない形です。全体像は薬剤師の副業はどこまでOK?をどうぞ。
参考にしている主な一次情報:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律 第7条・第28条・第66条・第68条/不当景品類及び不当表示防止法 第5条/健康増進法 第65条/刑法 第134条/地方公務員法 第34条・第38条/所得税法 第204条(いずれもe-Gov法令検索)/国税庁「報酬・料金等の源泉徴収」「給与所得者で確定申告が必要な人」。
※情報は執筆時点のもので、本業の就業規則・許可基準、監修契約の内容は個別に異なります。実際に動く前に、本業の人事担当と発注者にご確認ください。

