「副業の労働時間の通算がなくなる」「割増賃金のルールが変わる」——2025年から2026年にかけて、労働基準法改正の議論でこの話題が繰り返し報じられました。結論から言うと、2026年8月時点で法律は変わっていません。労働基準法38条の「労働時間は、事業場を異にする場合においても通算する」は現行のままで、2026年の通常国会への改正法案の提出は見送られ、議論は継続中です。ただし議論の方向性は固まりつつあり、「健康管理のための通算は維持し、割増賃金の計算は勤務先ごとに分ける」案が軸になっています。この記事は、現行の38条と、労働基準関係法制研究会の報告書(2025年1月)以降の議論を整理し、副業をする会社員・パート・公務員にとって「いま何が適用され、変わるとしたら何がどう変わるか」をまとめます。
結論:いまは「通算=現行どおり」。変わるとしても「割増賃金の分離」であり、「通算そのものの廃止」ではない
| 現行(2026年8月時点) | 議論されている案 | |
|---|---|---|
| 労働時間の通算(労基法38条) | 本業と副業先(雇用)の労働時間は通算。週40時間を超えた分は時間外 | 健康確保のための通算管理は維持 |
| 割増賃金の計算 | 通算して法定時間外になった分は、後から契約した側が割増を支払う | 勤務先ごとに自社内の労働時間だけで判断(分離管理)。他社分との合算精算は不要に |
| 法案の状況 | 2026年通常国会への提出は見送り | 継続検討。2026年後半〜2027年に審議が本格化する可能性 |
| 施行時期 | 未定 | 成立すれば施行は早くて2027年以降の見込み(報道ベース) |
線①:現行の38条——何が「通算」されるか
労働基準法38条1項は「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と定めています。厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」は、この通算を「雇用される副業同士」に適用し、業務委託(請負・委任)は通算の対象外としています。現行の実務は次のとおりです。
- 本業で週40時間働いた後の副業(雇用)は、すべて法定時間外=25%以上の割増賃金の対象
- 割増賃金の支払義務は、後から労働契約を結んだ使用者(通常は副業先)にかかる
- 使用者は労働者の自己申告で他社の労働時間を把握する。申告がなければ把握義務を尽くしたと扱われる
- 「管理モデル」(本業と副業先があらかじめ時間の上限を決め、副業先が自社分を全て割増で払う簡便法)が選択肢として示されている
副業先が「本業の所定労働時間を教えてください」と聞くのは、この割増賃金の義務を判断するためです。副業のアルバイト採用を断られる理由の一つがここにあります。
線②:議論の経緯——研究会報告書から「見送り」まで
- 2025年1月:厚生労働省の労働基準関係法制研究会が報告書を公表。副業・兼業の労働時間通算制度について、健康確保のための通算は維持しつつ、割増賃金の通算は見直す方向を提言
- 2025年〜:労働政策審議会(労働条件分科会)で審議。労働者側からは「働き過ぎの把握が難しくなる」との懸念、使用者側からは管理負担の軽減を求める声
- 2026年通常国会:改正法案の提出は見送り。連続勤務の上限・勤務間インターバル・法定休日の特定など、他の論点とあわせて継続検討
- 2026年8月時点:法律は現行のまま。審議の再開時期は未定だが、2026年後半〜2027年に本格化するとの見方
報道や解説記事の中には「2027年4月施行」と具体的な時期を書くものもありますが、法案が提出されていない以上、施行時期は確定していません。
線③:変わったら何が変わるか——立場別
| 立場 | 現行 | 分離管理になった場合 |
|---|---|---|
| 会社員(フルタイム)+副業のアルバイト | 副業分はすべて時間外。副業先が割増を払うか、採用を断る | 副業先は自社内で8時間・40時間を超えた分だけ割増。副業のアルバイトに採用されやすくなる一方、割増がつかない分、手取りは減る |
| パート(週20時間)+別のパート(週20時間) | 合計40時間で法定内。超えた分は後契約側が割増 | 各社で判断。合計が40時間を超えても各社内で超えなければ割増なし |
| 業務委託の副業 | 通算の対象外 | 変わらない |
| 公務員(許可を得て雇用の副業) | 通算あり。許可条件で時間制限 | 割増の扱いは変わり得るが、許可制(38条)と健康管理の通算は変わらない |
| 使用者(本業・副業先) | 他社の労働時間を把握し、割増を計算 | 健康管理のための把握は残る。割増計算は自社分のみ |
「通算がなくなる=いくらでも働ける」ではありません。健康確保のための通算管理は残る方向で、長時間労働者への面接指導(労働安全衛生法66条の8)や勤務間インターバルの議論とセットです。
手取りの試算|同じ副業でも「現行」と「分離管理」で変わる
数字は考え方を示す概算です。本業がフルタイム(週40時間)の会社員が、副業先で時給1,200円・週8時間(月約35時間)働く例。
| 現行(通算) | 分離管理案 | |
|---|---|---|
| 副業の労働時間の扱い | 全て法定時間外(本業で40時間に達しているため) | 副業先の自社内では8時間・40時間未満=法定内 |
| 時給 | 1,200円×1.25=1,500円 | 1,200円 |
| 月の副業収入(35時間) | 約52,500円 | 約42,000円 |
| 副業先の採用の姿勢 | 割増の負担と管理の手間で断られやすい | 採用されやすくなる見込み |
労働者にとって現行は「採用されにくいが割増がつく」、分離管理は「採用されやすいが割増がつかない」。どちらが得かは、副業先が現行で本当に割増を払っているか(払っていない運用も多い)と、採用されるかどうかで変わります。現行で割増が払われていない場合、その未払いは法律上の問題で、改正で「なかったこと」にはなりません。
いま副業をする人が取るべき姿勢
- 現行法で設計する:改正を当てにして「通算は気にしなくていい」と動かない。雇用の副業は本業の所定労働時間を副業先に正確に伝える
- 業務委託なら影響なし:執筆・制作・事務代行などの業務委託は、改正の前後で扱いが変わらない。案件の相場はランサーズのようなクラウドソーシングで把握できる(受注は本業の手続の後に)[PR]
- 改正後を見越すなら:雇用の副業が採用されやすくなる一方で割増がつかなくなる可能性がある。「時給×時間」の手取り試算を、割増なしの前提でもしておく
- 健康管理は自分で:制度が分離管理になっても、本業+副業の総労働時間が健康に与える影響は変わらない。週の上限を自分で決める
- 情報の更新:厚生労働省の労働政策審議会(労働条件分科会)の資料と、国会への法案提出の有無で確認する。解説記事の「施行予定」は確定情報ではない。法案が提出されれば、衆議院・参議院のサイトで条文と審議の状況を読める
税金|改正の影響はない
労働時間の通算は労働基準法の話で、税金には関係しません。雇用の副業は給与所得、業務委託は雑所得・事業所得で、給与以外の所得が年20万円を超えれば所得税の確定申告、20万円以下でも住民税の申告が必要です。副業が給与なら住民税の経路で本業に伝わる点も変わりません。帳簿と申告書を一か所で済ませたい場合は、弥生のクラウド確定申告ソフトのような会計ソフトを使う方法があります(料金・対応範囲は公式サイトでご確認ください)。[PR]
よくある質問
Q1. 「2027年4月から通算廃止」と書いてある記事を見た
2026年8月時点で法案は国会に提出されておらず、施行時期は確定していません。「廃止」ではなく「割増賃金の計算を勤務先ごとに分ける」案で、健康管理の通算は維持される方向です。
Q2. 改正されたら副業先が割増を払わなくてよくなる?
分離管理になれば、副業先は自社内の労働時間だけで8時間・40時間を判断し、本業分を合算した割増は不要になる見込みです。自社内で超えた分の割増は残ります。
Q3. 改正前に副業を始めるのは損?
現行では副業先が割増を払う形なので、労働者側の手取りはむしろ現行のほうが多い設計です。採用のされやすさは改正後のほうが上がる可能性があります。
Q4. 公務員の副業にも関係ある?
公務員の副業は地方公務員法38条・国家公務員法103条・104条の許可制が軸で、労基法の通算の改正は許可の要否を変えません。雇用の副業の割増の扱いが変わる可能性がある程度です。
Q5. 会社が「改正されるまで副業は認めない」と言っている
改正の有無と副業の可否は別です。現行法でも、本業の時間を把握して管理モデル等で運用すれば雇用の副業は認められます。業務委託の副業なら通算の問題自体がありません。就業規則の扱いは副業禁止規定の効力へ。
Q6. 業務委託の副業は何か変わる?
変わりません。業務委託は現行でも通算の対象外で、改正案も雇用の通算に関するものです。
まとめ|「いまは現行どおり」「変わるのは割増の計算」「通算そのものは残る」
副業の労働時間通算は、2026年8月時点で労働基準法38条のとおり現行のままです。議論されている改正案は、健康確保のための通算管理を維持しつつ、割増賃金の計算を勤務先ごとに分離するもので、2026年通常国会への提出は見送られ、継続検討中。副業の設計は現行法で行い、業務委託なら影響なし、雇用なら本業の時間を副業先に正確に伝える——これが2026年の正しい姿勢です。雇用の副業の通算の実務は派遣社員の副業ルール、禁止規定の効力は就業規則の「副業禁止」はどこまで有効?をどうぞ。
参考にしている主な一次情報:労働基準法(昭和22年法律第49号)第32条・第37条・第38条/労働安全衛生法 第66条の8(e-Gov法令検索)/厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」/厚生労働省 労働基準関係法制研究会「報告書」(2025年1月)/労働政策審議会労働条件分科会の資料。
※情報は執筆時点(2026年8月)のもので、法案の提出・成立・施行時期は今後変わります。最新の状況は厚生労働省の公表資料でご確認ください。

