教員の退職後の定番は、塾講師・家庭教師・教材執筆・非常勤講師です。どれも在職中は教特法17条の承認か地公法38条の許可が要った仕事ですが、退職すれば自由になります。ただし、「元生徒を教える」「元勤務校の保護者から依頼を受ける」「学校で知ったことを本に書く」には、退職後も残る規律があります。この記事は、地方公務員法34条(秘密・退職後も)・38条の2(退職後2年の古巣への働きかけ禁止)と、定年後の再任用(22条の4)・会計年度任用(22条の2)の違いを根拠に、教員の退職後の副業・起業の線を整理します。公務員全体の退職後は公務員の退職後の副業・起業・再就職に制限はある?、再任用の副業は定年後の再任用公務員の副業は自由?へ。
結論:退職後の塾・家庭教師・執筆は自由。残るのは「生徒・学校の情報(34条)」と「古巣への営業(38条の2)」
| 退職後にやりたいこと | 規制 | 見立て |
|---|---|---|
| 塾講師・家庭教師(雇われる/個人) | なし | ◎ 在職中の承認・許可は不要になる |
| 教材の執筆・監修、教育系メディアの記事 | なし(34条の範囲で) | ◎ 生徒・学校が特定できる情報は使えない |
| 私立学校・大学の非常勤講師 | なし | ◎ |
| 自分で塾・教室を開業 | なし | ◎ 在職中の「自ら営利企業を営む」の許可は不要になる |
| 元勤務校の生徒を教える・元保護者から依頼を受ける | 法律上の禁止はない。34条(秘密)と信用の問題 | ○ 在職中に知った成績・家庭の情報を使わない。学校側の受け止めには配慮 |
| 教材会社の営業として元勤務校・教育委員会に売り込む | 38条の2 | △ 退職後2年間、離職前5年間に在籍した組織(学校・教育委員会)への契約等に関する働きかけは不可 |
| 在職中の生徒・同僚のエピソードを本・動画にする | 34条 | ✕ 特定できる形は退職後も不可 |
線①:退職で外れるもの——教特法17条と地公法38条
在職中、教員の「教育に関する」兼職・兼業は教育公務員特例法17条の任命権者の承認、それ以外の報酬を得る副業は地方公務員法38条の許可が必要でした。どちらも「教育公務員」「職員」に対する規定なので、退職した時点で適用されなくなります。塾講師・家庭教師・執筆・開業、いずれも承認・許可は不要です。
ただし、定年後に再任用短時間勤務職員(22条の4)として学校に残る場合は、38条ただし書のかっこ書きにより許可制が続きます(教特法17条も、再任用は教育公務員なので適用されます)。パートタイム会計年度任用職員(22条の2第1項1号・非常勤講師など)として働く場合は、38条の適用外で許可は不要です(教特法17条2項により、非常勤講師には17条1項も適用されない)。つまり、退職後に学校で働き続けるなら、再任用より非常勤講師のほうが副業は自由です。
線②:退職後も残るもの——34条の秘密
地方公務員法34条は、職務上知り得た秘密を退職後も漏らしてはならないと定めています。教員が職務上知る秘密は、生徒の成績・評定・進路・家庭環境・健康・指導記録、保護者の事情、同僚の人事、学校の内部情報など広範です。退職後の副業で次の形は34条の問題になります。
- 塾・家庭教師で、元勤務校の生徒の成績・評定の情報をもとに指導や進路相談をする(本人・保護者から改めて聞いた情報は別)
- 本・ブログ・動画で、生徒や保護者が特定できるエピソードを書く。名前を伏せても学校名・年度・特徴で特定できれば同じ
- 教育委員会・学校の未公開の内部情報(入試の採点基準・人事・予算)を教材会社やメディアに提供する
「元教員」と名乗って教育の知識を売ること自体は自由です。売れるのは一般化した経験と公開情報まで、という線です。
線③:38条の2——教材会社・ICT企業に再就職する人の注意
38条の2第1項は、退職後に営利企業等の地位に就いた元職員が、離職前5年間に在籍した執行機関の組織等(教員なら学校・教育委員会)の職員に対し、その自治体とその企業との契約・処分に関する事務で離職前5年間の職務に属するものについて、離職後2年間、働きかけをすることを禁じています。
教員の再就職先として多い教材会社・教育ICT企業・塾チェーンで、営業として元勤務校や元の教育委員会に製品・サービスを売り込む形がこれに当たります。教材の開発・研修講師・カリキュラム設計など、古巣への営業に関わらない役割なら問題ありません。転職先の営業担当に「2年間は○○市の学校・教育委員会への営業には関われない」と伝えておくのが現実的です。
元生徒・元保護者との関係|法律より「学校の受け止め」が問題になる
退職した教員が、元勤務校の生徒を塾や家庭教師で教えることを禁じる法律はありません。ただし次の点で学校・地域との関係が問題になり得ます。
- 在職中に知った情報の利用(34条):評定・進路の内部情報を使った指導は不可。本人・保護者から改めて提供された情報だけで指導する
- 在職中からの勧誘:退職前に生徒・保護者に「退職後に塾をやるから来てほしい」と勧誘するのは、在職中の信用失墜(33条)・職務専念(35条)の問題。退職後に保護者側から依頼が来る形に限る
- 現職教員との関係:元勤務校の進路指導と矛盾する指導は、学校側との摩擦になる。法律の問題ではないが、地域で続ける仕事なら配慮が要る
退職までの逆算|教員版
| 時期 | やること | 規制 |
|---|---|---|
| 3〜5年前 | 退職後の柱(塾・教材・執筆・非常勤)を決め、報酬の出ない範囲で土台を作る(教材の試作・ブログの下書き・資格) | 報酬がなければ17条・38条の外 |
| 2年前 | 17条の承認を取って教材執筆・研修講師を始める。退職後の実績になる。承認申請は教員の兼業承認申請の書き方 | 教特法17条 |
| 1年前 | 再任用・非常勤講師・完全退職を決める。副業の自由度は非常勤>再任用。教材会社等への再就職は人事の正規ルートで | 在職中の求職規制(自治体の条例) |
| 退職〜2年 | 塾・教材・執筆を本格化。元勤務校・教育委員会への営業だけは避ける | 38条の2 |
| 退職2年後〜 | 38条の2が明ける。34条は続く | 34条 |
教材執筆・教育記事・講師の案件の相場は、ランサーズのようなクラウドソーシングで「教材 作成」「教育 記事」などと検索すると把握できます(在職中の受注は承認の後に)。[PR]
退職後の働き方3つを「副業の自由度」で比べる
| 再任用短時間勤務(教諭等) | 非常勤講師(パートタイム会計年度任用) | 完全退職 | |
|---|---|---|---|
| 教特法17条(教育に関する兼職の承認) | 必要 | 不要(17条2項で適用除外) | — |
| 地公法38条(報酬を得る副業の許可) | 必要(短時間勤務の職は除外から外れる) | 不要(非常勤職員) | — |
| 34条(秘密) | 全員・永続 | ||
| 38条の2(古巣への働きかけ規制) | 在職中は対象外 | 離職から2年 | 退職から2年 |
| 塾・家庭教師の掛け持ち | 許可が要り、出にくい(競合する教育活動) | 自由(学校の情報を使わない・時間が重ならない) | 自由 |
| 収入の安定 | 高 | 中 | 年金・貯蓄次第 |
「学校に残りつつ塾や執筆を自由にやりたい」なら非常勤講師、「収入の安定を優先し副業は許可を取って小さく」なら再任用、「独立に全振り」なら完全退職——という選び方になります。
オンラインで教える仕事は、雇用契約ではなく「講師登録」という形をとるところもあります。たとえばよみかきそろばんくらぶのオンライン先生募集は、自宅からZoomで個別に指導する形で、雇用契約でも業務請負契約でもない講師登録という契約形態です(源泉徴収は行われないため、所得額によっては自分で確定申告をすることになります)。月曜〜土曜の7〜21時の中から可能な時間を選ぶ形で、応募には大卒であること・長期(最低3年以上)続けられることといった条件があり、Zoomに必要な機材や回線は自分で用意します。在職中の方は、契約の形にかかわらず先に承認・許可の手続きを済ませてください。条件や募集状況は変わることがあるため、最新の内容は公式サイトでご確認ください。[PR]
税金|退職後の最初の1年
塾に雇われれば給与所得、家庭教師・教材執筆は雑所得または事業所得、開業すれば事業所得、年金が始まれば雑所得。退職した年は退職所得の扱い(退職所得の受給に関する申告書を出していれば通常は申告不要)を確認してください。開業するなら開業届と青色申告の選択で控除が変わります。退職後の所得はどこも年末調整をしてくれないので、1年分の収入と経費を自分で集計することになります。帳簿と申告書を一か所で済ませたい場合は、弥生のクラウド確定申告ソフトのような会計ソフトを使う方法があります(料金・対応範囲は公式サイトでご確認ください)。[PR]
よくある質問
Q1. 退職してすぐ、元勤務校の近くで塾を開いてもいい?
法律上の制限はありません。在職中に生徒を勧誘していないこと、在職中に知った情報を使わないことが条件です。学校との関係に配慮するかどうかは地域での仕事の続けやすさの問題です。
Q2. 教材会社に転職して、元の教育委員会に営業するのは?
退職後2年間は38条の2により、離職前5年間に在籍した組織への契約等に関する働きかけができません。営業以外の役割で入るか、2年経過後に公的な調達手続で対応する形になります。
Q3. 在職中の経験を本にしたい
生徒・保護者・同僚が特定できる形は34条で不可。一般化した経験と公開情報に限れば自由です。
Q4. 非常勤講師として残りながら塾で教えるのは?
パートタイム会計年度任用職員(非常勤講師)なら38条の適用外で、教特法17条1項も適用されません。学校の情報を塾で使わないこと(34条)、勤務時間の重なりがないことが条件です。自治体の要綱で届出を求める場合はそれに従います。
Q5. 私立学校の教員の退職後は?
地方公務員法は適用されないので、38条の2はありません。秘密保持・競業は退職時の誓約書・就業規則の規定によります。
まとめ|自由になるのは「承認・許可」、残るのは「情報」と「古巣への営業」
教員の退職後は、教特法17条の承認も地公法38条の許可も不要になり、塾・家庭教師・執筆・開業は自由です。残るのは34条(生徒・学校の情報は退職後も出せない)と38条の2(退職後2年間、元勤務校・教育委員会への契約等に関する働きかけ禁止)。退職後に学校で働き続けるなら、再任用は許可制が続き、非常勤講師なら自由。在職中の線引きは教員の副業はどこまでOK?をどうぞ。
参考にしている主な一次情報:地方公務員法(昭和25年法律第261号)第22条の2・第22条の4・第33条・第34条・第35条・第38条・第38条の2/教育公務員特例法(昭和24年法律第1号)第17条(いずれもe-Gov法令検索)/国税庁「退職金と税」「給与所得者で確定申告が必要な人」。
※情報は執筆時点のもので、再就職規制の具体的な範囲は各自治体の条例・人事委員会規則によります。実際に動く前に、所属の人事担当にご確認ください。

