パート・アルバイトの掛け持ち(ダブルワーク)をしている人、会社員で副業のアルバイトをしている人にとって、社会保険の「106万円の壁」は働き方の上限でした。2025年6月に成立した年金制度改正法で、この壁(月額賃金8.8万円以上という要件)は撤廃されることが決まりました。施行時期は政令で定められ、法律上は公布から3年以内(2028年6月まで)。さらに企業規模要件(従業員51人以上)も2027年10月から段階的に撤廃されます。残るのは「週20時間以上」「雇用期間2か月超の見込み」「学生でない」の3つ。つまり、週20時間以上働けば、賃金額・企業規模にかかわらず社会保険に加入する方向に向かっています。この記事は、健康保険法3条1項9号と2025年改正を根拠に、ダブルワーク・副業アルバイトの社会保険がどう変わるかを「残る要件」「2か所加入」「手取りの変化」「設計の組み直し」で整理します。2か所加入の仕組みは副業すると社会保険はどうなる?へ。
結論:壁は「年収」から「週20時間」に移る。ダブルワークは各勤務先で20時間を見る。副業のアルバイトで20時間を超えれば2か所加入
| 要件 | 現行(2026年8月時点) | 改正後 |
|---|---|---|
| 週の所定労働時間 | 20時間以上 | 20時間以上(維持) |
| 月額賃金 | 8.8万円以上(年収約106万円) | 撤廃(施行時期は政令・公布から3年以内) |
| 雇用期間 | 2か月超の見込み | 維持 |
| 学生 | 除外 | 維持 |
| 企業規模 | 従業員51人以上(特定適用事業所) | 2027年10月から段階的に引き下げ、最終的に撤廃 |
線①:社会保険の加入要件は「勤務先ごと」に見る
健康保険法3条1項9号は、短時間労働者の適用要件を「事業所に使用される者」について定めています。つまり、ダブルワークの場合、A社で週20時間・B社で週15時間なら、A社では加入、B社では非加入。2社の時間を合算して判定するのではありません(労働時間の通算は労働基準法の話で、社会保険の要件判定とは別)。
改正後も同じ構造です。賃金要件と企業規模要件が消えると、「週20時間以上の勤務先では加入」だけが判定基準になります。週20時間未満に抑えれば非加入、20時間以上なら加入。これまで「月8.8万円未満に抑える」で調整していた人は、「週20時間未満に抑える」に基準が変わります。
線②:2か所で20時間以上なら「2か所加入」
A社で週24時間、B社で週20時間なら、両方で加入要件を満たし、二以上事業所勤務届を出して主たる事業所を選び、保険料は両社の報酬を合算した標準報酬月額で計算して按分します(健康保険法7条・44条3項・161条4項)。改正で賃金要件が消えると、時給が低くても20時間以上なら加入になるので、ダブルワークで2か所加入になる人が増えます。
会社員が副業でアルバイトをする場合も同じです。本業で加入している上に、副業先で週20時間以上働けば副業先でも加入。副業先の企業規模要件が消えれば、小さな飲食店・小売店のアルバイトでも対象になります。
線③:手取りはどう変わるか——「壁を越える」のではなく「壁が消える」
数字は考え方を示す概算です。時給1,100円・週22時間(月約95時間・月収約10.5万円)のパートの例。
- 現行・企業規模51人未満の勤務先:加入要件に当たらない(規模要件)。手取りは月収から所得税・住民税を引いた額。配偶者の扶養(130万円未満)内なら健康保険料・年金保険料の負担なし
- 改正後(規模要件撤廃後):週20時間以上なので加入。健康保険・厚生年金の本人負担はおおむね報酬の15%弱で、月1.5万円前後の保険料。手取りは月9万円前後に。その代わり、将来の厚生年金・傷病手当金・出産手当金の対象になる
「106万円に抑えていた人」は、改正後は抑える意味がなくなり(賃金要件がないので)、週20時間未満に抑えるか、加入して手取り減と給付増を受け入れるかの選択になります。配偶者の扶養(130万円)は健康保険の被扶養者の要件で別の制度ですが、勤務先で加入すれば被扶養者からは外れます。
線④:ダブルワーク・副業の設計をどう組み直すか
| いまの働き方 | 改正後に起きること | 組み直しの選択肢 |
|---|---|---|
| パート1か所・月8.8万円未満に調整 | 賃金要件が消え、週20時間以上なら加入 | ①週20時間未満にする/②加入して時間を増やす(手取りの谷を越える) |
| パート2か所・各週15時間 | 各社20時間未満なので非加入のまま | 変更なし。ただし労基法の通算(合計30時間)は残る |
| パート2か所・各週22時間 | 両社で加入→2か所加入 | ①片方を20時間未満に/②2か所加入で給付を取る |
| 会社員+副業アルバイト週10時間 | 副業先は20時間未満なので非加入 | 変更なし。住民税の経路は残る |
| 会社員+副業アルバイト週22時間(小規模店) | 規模要件撤廃後は副業先でも加入→2か所加入・本業に即時に伝わる | ①20時間未満に/②業務委託の副業に切り替える |
会社員の副業で「本業に伝わらない形」を維持したい人にとって、改正後は雇用の副業で週20時間以上は2か所加入で本業に伝わることになります。業務委託(執筆・制作・事務代行)は社会保険の対象外で、この経路は生じません。案件の相場はランサーズのようなクラウドソーシングで把握できます(受注は本業の手続を確認してから)。[PR]
施行時期の見方|「いつから」は2段階
- 賃金要件(8.8万円)の撤廃:法律は成立済み。施行日は政令で定められ、公布(2025年6月)から3年以内。最低賃金の状況を踏まえて決められる。報道では2026年10月を有力視する見方があるが、政令が出るまで確定ではない
- 企業規模要件(51人)の段階的撤廃:2027年10月から段階的に引き下げ、最終的に撤廃。段階の区分は政令・省令で示される
自分の勤務先が「いつから対象になるか」は、勤務先の従業員数と政令のスケジュールで決まります。勤務先の給与担当に「適用拡大の対象になる時期」を聞いておくと、時間の調整を前もって決められます。施行の直前に慌てて時間を削ると、シフトの穴で職場との関係が悪くなります。
税金の壁とは別の話
社会保険の「106万円の壁」と、所得税の「壁」(2025年の税制改正で基礎控除・給与所得控除が引き上げられ、給与収入160万円まで所得税がかからない形に)は別の制度です。配偶者の扶養の「130万円の壁」(健康保険の被扶養者)も別。改正で消えるのは社会保険の賃金要件だけで、税金側の計算は変わりません。ダブルワーク・副業の給与は2か所以上の給与として確定申告が必要になることが多く、給与以外の所得があれば20万円ルールも見ます。複数の源泉徴収票をまとめて申告書に落とす作業は、帳簿と申告書を一か所で済ませたい場合に弥生のクラウド確定申告ソフトのような会計ソフトを使う方法があります(料金・対応範囲は公式サイトでご確認ください)。[PR]
よくある質問
Q1. 106万円の壁はもう無くなった?
法律は成立していますが、賃金要件撤廃の施行日は政令で定められ、2026年8月時点では施行されていません(公布から3年以内)。勤務先の給与担当と厚生労働省の公表で確認してください。
Q2. 週20時間の壁は残る?
残ります。改正後は週20時間以上が加入の主な基準になります。
Q3. ダブルワークで合計週30時間。どちらも20時間未満なら加入しない?
社会保険の要件は勤務先ごとに見るので、各社で20時間未満なら加入しません。労働基準法の労働時間の通算(割増賃金)は別に働きます。
Q4. 加入したくない。どうすれば?
週20時間未満に抑える(勤務先ごと)か、業務委託の副業に切り替えるか。加入すれば将来の年金・傷病手当金等の給付が増えるので、手取りだけで判断しない視点もあります。特に厚生年金は加入期間がそのまま将来の年金額に乗ります。
Q5. 学生のアルバイトは?
学生の除外要件は維持されるので、昼間の学生は週20時間以上でも加入しません(夜間・通信・休学中など一部は対象)。学生でなくなった時点で要件を見直します。
Q6. 配偶者の扶養(130万円)はどうなる?
健康保険の被扶養者の要件(年収130万円未満等)は今回の改正の対象ではありません。ただし勤務先で加入要件を満たせば、年収にかかわらず勤務先の健康保険に加入し、被扶養者からは外れます。
まとめ|壁は「年収106万円」から「週20時間」へ。ダブルワークは勤務先ごとに、副業アルバイトは2か所加入を前提に設計し直す
2025年の年金制度改正で、社会保険の賃金要件(月8.8万円・年収106万円)は撤廃が決まり(施行は政令・公布から3年以内)、企業規模要件は2027年10月から段階的に撤廃。残るのは週20時間・2か月超・学生でない、の3つです。ダブルワークは勤務先ごとに20時間を見て、2か所で超えれば2か所加入。会社員の副業アルバイトは、20時間以上で副業先でも加入して本業に伝わる。壁を「抑える」設計から、「加入して給付を取る」か「20時間未満・業務委託」かを選ぶ設計へ——が改正後の形です。2か所加入の仕組みは副業すると社会保険はどうなる?をどうぞ。
参考にしている主な一次情報:健康保険法(大正11年法律第70号)第3条第1項第9号・第7条・第44条・第161条/厚生年金保険法 第12条/社会保障制度の持続可能性の確保のための年金制度等の一部を改正する等の法律(2025年6月13日成立)(いずれもe-Gov法令検索)/厚生労働省「年金制度改正法の概要」「短時間労働者の適用拡大」/日本年金機構「二以上事業所勤務届」。
※情報は執筆時点(2026年8月)のもので、賃金要件撤廃の施行日・企業規模要件の段階的撤廃の区分は政令・省令で定められます。最新の状況は厚生労働省・日本年金機構の公表でご確認ください。数字は考え方を示す概算です。

