「実家の農業を手伝っている」「親が亡くなって田んぼを相続した」「家業の商店を継ぐことになった」——公務員にとって、農業・家業は「副業を始める」のではなく「気づいたら副業になっていた」形で問題になります。地方公務員法38条は「自ら営利企業を営む」ことと「報酬を得て事業に従事する」ことを許可制にしており、農業も家業も、報酬の有無と規模によって許可の要否が変わります。多くの自治体が農業について規模の基準(販売の有無・面積・収入)を置き、家業の承継について個別の運用を持っています。この記事は、地方公務員法38条と自治体の許可基準の考え方を根拠に、公務員の農業・家業の線を「報酬の有無・規模・名義・相続」で整理します。不動産賃貸は公務員の不動産・株式投資は副業になる?へ。
結論:無報酬の手伝いは対象外。自分が経営者で販売収入があれば「自ら営む」。規模基準内なら許可不要の自治体が多く、超えれば許可申請
| 形 | 38条 | 見立て |
|---|---|---|
| 親が経営する農業を無報酬で手伝う | 対象外(報酬なし・自ら営まない) | ◎ |
| 親の農業を手伝い、日当・小遣いを受ける | 「報酬を得て事業に従事」 | △ 形式上は許可対象。自治体によっては家族経営の手伝いとして届出で済む運用 |
| 自分名義で農地を持ち、自家消費のみ | 営利目的でない | ◎ 許可不要(販売しない) |
| 自分名義で農業を営み、販売収入がある(小規模) | 「自ら営利企業を営む」。規模基準内なら許可不要とする自治体が多い | ○ 自治体の基準を確認 |
| 自分名義で農業を営み、販売収入が一定以上 | 「自ら営利企業を営む」=許可が必要 | △ 許可申請。管理を家族・法人に委ね、勤務時間を使わない形で |
| 家業の商店・飲食店を継ぎ、自分が事業主になる | 「自ら営利企業を営む」 | △ 許可申請。実際の運営を家族に委ねる形が前提 |
| 家業の法人の役員(代表・取締役)に就く | 「営利企業の役員を兼ねる」 | △ 許可申請。名目上の役員でも対象 |
線①:報酬の有無——無報酬の手伝いは38条の外
38条1項が許可制にしているのは、「営利企業の役員を兼ねる」「自ら営利企業を営む」「報酬を得て事業・事務に従事する」の3つです。親が経営する農業・商店を、報酬を受けずに休日に手伝うことは、どれにも当たりません。無報酬であれば許可は不要で、多くの自治体もそう運用しています。
ただし、「小遣い」「日当」「お礼」の名目でも、継続的に金銭を受けていれば「報酬」です。また、家族経営で生計が一体(同じ財布)の場合は、報酬の有無の線が曖昧になります。自治体によっては、同居の家族が営む事業の手伝いについて「届出で足りる」「許可不要」とする運用を持っているので、人事に確認してください。
線②:規模——「自ら営む」に当たる農業の基準
自分名義で農業を営み販売収入がある場合、「自ら営利企業を営む」に当たるかは規模で判断されます。国家公務員では人事院規則が「自営に当たる」基準を置き(農業は販売を目的とするもので一定の要件)、地方自治体の多くも同様の基準を要綱で定めています。典型的な考え方は次のとおりです。
- 販売しない(自家消費):営利目的でないので対象外
- 販売するが小規模:年間の販売収入・耕作面積が基準未満なら「自営」に当たらないとして許可不要(自治体の基準による)
- 販売が一定規模以上:「自営」として許可が必要。許可の条件は「職務の遂行に支障がない」「勤務時間を使わない」「利害関係がない」など
基準の数値は自治体ごとに違います。「うちの自治体では農業は基準内なら届出不要」のような運用を、要綱の文言で確認してください。口頭の「昔からみんなやっている」は、発覚時の根拠になりません。
線③:名義と実態——「親の名義だから」は通らない
農業の経営者が親の名義でも、実際に作付けの判断・販売・帳簿を自分がしていれば、「自ら営む」と評価されます。逆に、自分名義の農地でも、経営は親が行い自分は休日に無報酬で手伝うだけなら、「自ら営む」には当たりません。判断されるのは名義ではなく、
- 誰が経営の判断をしているか
- 誰が販売収入を受け取っているか(誰の口座に入るか)
- 誰が農業所得を申告しているか
- 誰が労働時間の大半を担っているか
です。税務上の申告名義と、38条の「営む」の評価は連動しやすいので、「自分が農業所得を申告しているのに、38条上は営んでいない」という主張は通りにくい点に注意してください。
線④:相続・承継——「気づいたら経営者」になる典型
親の死亡で農地・商店・法人の株式を相続すると、本人の意思にかかわらず「経営者」「役員」の地位に就くことがあります。この場合、
- 相続を知った時点で人事に相談する。相続は本人の意思によらないので、許可は出やすい類型
- 運営の形を決める:自分が経営に関与しない(家族・管理者に委ねる、農地を貸す、法人の役員を辞任する)か、許可を取って関与するか
- 許可申請:関与するなら、規模・運営の形・勤務時間を使わないこと・利害関係がないことを書いて申請
- 放置しない:相続して数年間、無許可のまま経営していた形が最も悪い。相続の事実は登記・税務で後から確実に分かる
仕分け表|「誰が・いくら・どの名義で」の3点で自己診断する
| チェック | 38条の外・許可不要の側 | 許可が必要な側 |
|---|---|---|
| 経営判断をするのは | 親・家族 | 自分 |
| 販売収入が入るのは | 親・家族の口座 | 自分の口座 |
| 農業所得・事業所得を申告するのは | 親・家族 | 自分 |
| 自分が受け取るもの | なし/自家消費分の現物 | 日当・小遣い・利益の分配 |
| 規模 | 自家消費/基準未満 | 基準以上の販売 |
| 法人の役員 | 就いていない | 就いている(名目でも) |
右の列が1つでもあれば、自治体の要綱で許可・届出の要否を確認してください。「昔からみんなやっている」は根拠になりません。
許可申請の書き方|農業・家業版
- 事業の概要:農業(品目・面積・販売先)または家業(業種・所在地・従業員数)
- 自分の関与:経営判断をするか、作業はどの程度か、勤務時間外・休日に限ること
- 規模:年間の販売収入の見込み。基準との関係
- 運営体制:家族・従業員・農協・管理者に日常の運営を委ねていること。繁忙期の対応
- 利害関係がないこと:自治体の補助金・許認可・取引と自分の職務が関わらないこと(農政・商工担当の職員は特に)
- 経緯:相続・承継の事実。本人の意思によらないこと
申請書の基本は公務員の兼業許可申請の書き方へ。
税金|農業所得・事業所得の申告
自分名義で農業を営み販売収入があれば農業所得(事業所得)、家業を継げば事業所得。経費を引いた所得が年20万円を超えれば所得税の確定申告、20万円以下でも住民税の申告が必要です。農業は収支内訳書(農業所得用)の様式があり、青色申告も選べます。親の農業を手伝って日当を受けていれば、給与所得または雑所得として申告します。農業・家業の帳簿(資材・減価償却・家事按分)は副業の中でも項目が多い部類です。帳簿と申告書を一か所で済ませたい場合は、弥生のクラウド確定申告ソフトのような会計ソフトを使う方法があります(料金・対応範囲は公式サイトでご確認ください)。[PR]
農業・家業と「別の副業」の関係
農業・家業で許可を取っている人が、さらに執筆・講師などの副業を加える場合、許可は別々に要ります。合計の時間・収入が「職務に支障がない」範囲かを見られるので、農業の繁忙期と重ねない設計にしてください。農業・地域の経験を活かした執筆(就農・地域づくり・直売のノウハウ)は、クラウドソーシングで需要のある分野です。案件の相場はランサーズのようなクラウドソーシングで「農業 記事」「地域 執筆」などと検索すると把握できます(受注は許可の後に)。[PR]
よくある質問
Q1. 週末だけ親の田んぼを手伝っている。報酬はないが米をもらっている
自家消費分の現物を受け取る程度なら、通常「報酬」とは扱われません。販売用の米を大量に受け取って自分で売っていれば報酬です。自治体の運用を確認してください。
Q2. 親が高齢で、実質的に自分が農業を回している。名義は親
経営判断・販売・労働の大半を自分が担っていれば、名義にかかわらず「自ら営む」と評価されます。規模が基準を超えていれば許可申請を。
Q3. 農地を相続したが、耕作する気はない
農地を貸す(農地中間管理機構・近隣農家)、農業委員会に相談して処分する、といった形なら「営む」に当たりません。賃料を受ける形は不動産賃貸の規模基準の話になります。
Q4. 家業の法人の取締役に「名前だけ」なっている
名目上でも「営利企業の役員を兼ねる」に当たり、許可が必要です。辞任するか、許可を取ってください。
Q5. 農政担当の職員が農業をするのは?
自分の職務(補助金・許認可)と自分の農業が関わる形は利害関係で、許可が出にくく、出ても条件が厳しくなります。人事に早めに相談してください。
まとめ|「無報酬の手伝い」は外、「自分が営む」は規模で、「相続」は相談が先
公務員の農業・家業は、無報酬の手伝いなら38条の外、自分名義で販売収入があれば「自ら営む」として規模基準で許可の要否が決まり、家業の承継・法人の役員は許可の対象です。名義ではなく実態(経営判断・収入の帰属・申告名義)で評価され、相続で経営者になったときは放置せず人事に相談して許可を取る。自治体の要綱の文言を確認することが、すべての出発点です。全体像は公務員の副業ガイドをどうぞ。
参考にしている主な一次情報:地方公務員法(昭和25年法律第261号)第38条/国家公務員法 第103条・人事院規則一四―八(営利企業の役員等との兼業・自営の基準の考え方)/農地法(農地の賃貸借・農業委員会)(いずれもe-Gov法令検索)/国税庁「農業所得の申告」「給与所得者で確定申告が必要な人」。
※情報は執筆時点のもので、農業・家業の許可基準(規模・届出の要否)は自治体ごとに異なります。実際に動く前に、所属の人事担当にご確認ください。

