PR

教員が教科書・問題集の執筆や監修を引き受けるとき|許可・職務著作(著作権法15条)・35条の例外の3点を先に確認する 2026

キャリア・横断
記事内に広告が含まれています。

教科書会社や出版社から「問題集の執筆をお願いしたい」と声がかかることは、教員にとって珍しくありません。ただ引き受ける前に確認しておくべき線が3本あります。①報酬を得るので地公法38条の許可(教育に関する内容なら教特法17条の承認)が要る、②授業のために自分が作った教材は、著作権法15条の職務著作に当たると勤務先のものになり得る、③授業で使った他人の著作物は35条の例外で複製できただけなので、出版物には転用できない——この3つです。この記事は、著作権法15条・35条と地公法38条・教特法17条の条文を根拠に、執筆・監修の依頼を安全に受けるための確認手順を整理します。自作教材を自分で売る場合は教員が自作教材をnoteで売る、承認の実務は兼業承認申請の書き方へ。


結論:許可・職務著作・35条の3点を確認してから受ける

確認すること 結論 根拠
執筆・監修に許可は要るか 報酬を得るなら要る。教育に関する内容なら17条の承認で扱う自治体もある 地公法38条1項/教特法17条1項
授業用に作った教材を出版に使えるか 職務著作に当たれば著作者は勤務先=自分の判断では使えない 著作権法15条1項
職務著作になる条件 法人等の発意/職務上作成/法人等の名義で公表/別段の定めがない、の4つ 著作権法15条1項
授業で複製した他人の著作物は 使えない。35条は「授業の過程における利用」に限った例外 著作権法35条1項
原稿料の税金 雑所得または事業所得。原稿料は源泉徴収されるのが通常 所得税法204条1項1号

線①:報酬を受け取る以上、手続は要る

地方公務員法38条1項は「職員は、任命権者の許可を受けなければ……報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事してはならない」と定めています。出版社からの原稿料・監修料は報酬にあたるので、許可の対象です。

執筆の内容が教育に関するものであれば、教育公務員特例法17条1項の兼職承認で扱われることもあります。17条は「本務の遂行に支障がないと任命権者において認める場合には、給与を受け、又は受けないで」従事できるという作りなので、無報酬の監修であっても承認の対象になり得ます。「名前を貸すだけだから」と手続を飛ばすのは危険です。

どちらの様式で出すかは自治体の運用によります。執筆の依頼は締切が先に決まっていることが多いので、依頼を受ける前に人事担当へ確認し、承認の見込みを立ててから返事をするのが安全です。


線②:職務著作——授業用に作ったものは誰のものか

ここが執筆の副業でいちばん見落とされる論点です。著作権法15条1項は次のように定めています。

「法人その他使用者(以下この条において「法人等」という。)の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする」

要件を分解すると4つです。

  1. 法人等の発意に基づくこと
  2. その法人等の業務に従事する者が職務上作成したものであること
  3. その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものであること
  4. 契約・勤務規則その他に別段の定めがないこと

注目したいのは3番目です。「法人等の名義で公表するもの」が要件になっているので、学校名義で公表されていない教材は、この要件を満たさない可能性があります。授業で配ったプリントが学校名義の公表物といえるかは、実際の運用や取扱いによって判断が分かれるところです。

実務的な結論としては、授業用に作った教材をそのまま出版物に流用するのは避けるのが安全です。使いたい場合は、勤務先(学校の設置者)に確認を取ってください。教材のアイデアや指導の考え方を活かして書き下ろすのであれば、この問題は生じません。


線③:35条の例外は「授業のため」だけ

著作権法35条1項は、教育機関での複製等について次の例外を定めています。

「学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、公表された著作物を複製し、若しくは公衆送信を行い、又は公表された著作物であつて公衆送信されるものを受信装置を用いて公に伝達することができる」

そして同項ただし書は、著作物の種類・用途、複製の部数、複製・公衆送信・伝達の態様に照らして著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでないとしています。

ここで確認すべきは、この例外の目的が「その授業の過程における利用に供すること」に限られている点です。授業で使うために新聞記事や問題文を複製することは35条で認められても、その素材を出版物に載せることは35条の射程外です。出版物に他人の著作物を使うなら、通常どおり許諾を取るか、引用(32条)の要件を満たす形にする必要があります。

なお35条2項は、公衆送信を行う場合に教育機関の設置者が相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならないと定めています。授業でのオンライン配信が補償金制度の対象になっているのはこの規定によるものです。


依頼を受ける前のチェックリスト

確認項目 見るところ
承認・許可 人事担当に様式を確認。締切から逆算して間に合うか
著作権の帰属 契約書に「著作権は出版社に譲渡」「著作者人格権を行使しない」とあるか
氏名の表示 実名で出すか、匿名か。所属校名を出す条件になっていないか
素材の出所 自分の授業用教材を流用しないこと。他人の著作物は許諾か引用の要件で
報酬と源泉 原稿料は源泉徴収されるのが通常。支払調書の有無
秘密保持 刊行前の内容を口外しない条項。授業で先に使わないこと

特に注意したいのが「所属校名を出す」条件です。「〇〇県立〇〇高校教諭」という肩書きは、出版社にとっては信頼性の材料ですが、学校にとっては学校が関与しているかのように見える表示になり得ます。肩書きを出す形なら、承認の申請書にその旨を書いて了解を得ておくのが安全です。

「書く仕事」を始めたいが、いきなり書籍の執筆はハードルが高いという場合、監修から入る道もあります。みんなの記事監修は、資格や専門性を持つ人が専門家として登録し、記事監修の依頼を受ける形のサービスで、登録時に本人確認と資格証の確認があります。監修料は報酬(雑所得または事業所得)になり、勤務時間として通算されないため、本業の勤務と重ならない形で受けられるのが特徴です。在職中の方は、報酬を受け取る以上、先に承認・許可の手続きを済ませてください。報酬や依頼の条件は変わることがあるため、最新の内容は公式サイトでご確認ください。[PR]


契約書で見るべき条項|3つ

①著作権の譲渡。出版契約では、著作権(複製権・翻案権など)を出版社に譲渡する条項が置かれることがあります。譲渡すると、同じ内容を他で使えなくなるので、将来自分の教材として使いたい部分があるなら、譲渡の範囲を確認してください。

②著作者人格権の不行使。「著作者人格権を行使しない」という条項は、改変や氏名表示の扱いを出版社に委ねる意味を持ちます。内容が大きく変えられても異議を述べにくくなるので、監修者として名前が出る場合は特に確認が必要です。

③二次利用の範囲。紙の書籍だけでなく、電子版・アプリ・動画教材への展開が含まれているか。二次利用の報酬が別に発生するのかを見ておくと、後で揉めません。


「監修」で名前を出すときの注意

執筆せずに「監修」として名前だけ出す依頼もあります。この場合に気をつけるのは、実際に内容を確認していない状態で名前を貸さないことです。内容に誤りがあったとき、監修者として責任を問われる可能性があります。

また、監修は無報酬でも17条の承認の対象になり得ます(17条が「給与を受け、又は受けないで」と定めているため)。「報酬がないから手続不要」とは限らないので、無償の監修でも所属に相談してください。


税金|原稿料・監修料は源泉徴収される

所得税法204条1項1号は、原稿料・講演料等について源泉徴収の対象としています。出版社から支払われる原稿料・監修料は、通常10.21%(1回の支払額が100万円を超える部分は20.42%)が源泉徴収された金額で振り込まれます。

この源泉徴収された税額は、翌年の確定申告で精算します。副業の所得区分は雑所得または事業所得で、必要経費(資料代・書籍代・通信費・パソコンの業務使用分)を引いた額が所得になります。源泉徴収されているぶん、申告すると還付になるケースも多いので、支払調書や振込明細は必ず保管してください。

副業の所得が年20万円以下で所得税の確定申告をしない場合でも、住民税の申告は必要です。


よくある質問

Q1. 出版社から依頼が来ました。承認は間に合いますか?

自治体によって審査に要する期間が違います。依頼を受ける前に人事担当に確認し、承認が下りてから正式に受けるのが安全です。締切が近い場合は、その旨を出版社に伝えて調整してください。

Q2. 授業で使っているプリントをそのまま問題集にできますか?

著作権法15条1項の職務著作に当たる場合、著作者は勤務先になります。要件の一つが「法人等の名義で公表するもの」なので一律ではありませんが、そのまま流用するのは避け、書き下ろすのが安全です。使いたい場合は設置者に確認してください。

Q3. 授業で配った新聞記事のコピーを、本にも載せられますか?

載せられません。著作権法35条1項は「その授業の過程における利用に供することを目的とする場合」の例外です。出版物に使うなら許諾を得るか、引用(32条)の要件を満たす必要があります。

Q4. 無報酬の監修でも承認が要りますか?

地公法38条は「報酬を得て」従事する場合の規定なので無報酬なら対象外ですが、教特法17条は「給与を受け、又は受けないで」と定めており、無報酬でも兼職承認の対象になり得ます。所属に確認してください。

Q5. 所属校名を出してもいいですか?

学校が関与しているかのような表示になり得るため、承認の申請書に肩書きの表示について書いて了解を得ておくのが安全です。所属を出さずに「現職教員」とだけ表示する形もあります。

Q6. 著作権を譲渡する契約でも問題ありませんか?

法律上は可能ですが、譲渡すると同じ内容を他で使えなくなります。将来自分の教材や講座で使いたい部分があるなら、譲渡の範囲や利用許諾の形を交渉してください。

Q7. 原稿料から引かれている税金は戻ってきますか?

源泉徴収された税額は確定申告で精算されます。必要経費を差し引いた結果、納めすぎになっていれば還付されます。支払調書・振込明細を保管してください。

Q8. 私立学校の教員でも同じですか?

私立は地公法38条・教特法17条の適用外なので、就業規則の副業規定に従います。著作権法15条の職務著作と35条の話は、公立・私立を問わず同じように問題になります。


まとめ|手続・職務著作・35条の3点を先に潰す

教科書・問題集の執筆や監修は、教員の専門性がそのまま報酬になる数少ない副業です。受ける前に確認するのは3点。①報酬を得るので地公法38条1項の許可(教育に関する内容なら教特法17条1項の承認。無報酬の監修でも17条の対象になり得る)、②授業用に作った教材は著作権法15条1項の職務著作に当たると著作者が勤務先になるため、そのまま流用しない、③授業で複製した他人の著作物は35条1項の「授業の過程における利用」の例外にすぎず、出版物には使えない。契約書では著作権の譲渡範囲・著作者人格権・二次利用を見て、原稿料は源泉徴収されるので確定申告で精算します。手続を先に済ませておけば、依頼が来たときに機会を逃さずに受けられます。


参考にしている主な一次情報:著作権法(昭和45年法律第48号)第15条(職務上作成する著作物の著作者)・第32条(引用)・第35条(学校その他の教育機関における複製等)/地方公務員法(昭和25年法律第261号)第38条/教育公務員特例法(昭和24年法律第1号)第17条/所得税法(昭和40年法律第33号)第204条。条文はe-Gov法令検索で確認しています。

※情報は執筆時点のものです。職務著作に当たるかどうかは個別の事情で判断が分かれます。契約の内容や承認の運用については、出版社および所属の教育委員会・人事担当にご確認ください。

タイトルとURLをコピーしました