消防士は「当番・非番・週休」の交替制で、平日の昼間に丸一日空く職業です。その時間で副業をして処分された——という話が出るたびに、「非番は勤務時間外なのに、なぜ処分されるのか」という疑問が出ます。答えは単純で、地方公務員法38条は「勤務時間外かどうか」ではなく「許可を受けたかどうか」で線を引いているからです。この記事は、消防士(消防本部・消防署の消防職員=市町村の地方公務員)が無許可の副業で受ける処分の標準例、消防職員ならではの重くなる要素、そして処分を軽くする唯一の方法を、地方公務員法と人事院「懲戒処分の指針」から整理します。消防団員は別の条文で動くので消防団員は副業していい?に分けてあります。
結論:無許可の副業の標準例は「減給または戒告」。消防士で重くなるのは「査察先・勤務中・隠蔽」
| 形 | 処分の見立て | 理由 |
|---|---|---|
| 非番の日に無許可でアルバイト(副業先は職務と無関係) | 減給または戒告(標準例) | 38条違反=29条1項1号の「法律に違反」 |
| 査察・立入検査の対象になる事業者(防火設備業者・飲食店等)で働く | 標準例より重い方向 | 38条に加え、利害関係=33条の信用失墜・公正さへの疑い |
| 当番日・待機中に副業の作業をする | 標準例より重い方向 | 38条に加え35条(職務専念義務)違反が重なる |
| 調査で虚偽の説明をする・帳簿を隠す | 重くなる | 指針の「重くする要素」に該当 |
| 発覚前に自ら申し出る | 軽くなる方向 | 指針の「軽くする要素」に該当 |
| 許可を取った範囲で副業する | 処分なし | 38条の許可を得ている |
条文で確認する|消防士の副業にかかる4つの規定
消防本部・消防署の消防職員は市町村の一般職の地方公務員で、地方公務員法が全面的に適用されます。副業に関わる規定は次の4つです。
- 38条(営利企業への従事等の制限):任命権者の許可を受けなければ、営利企業の役員を兼ねること、自ら営利企業を営むこと、報酬を得ていかなる事業・事務にも従事することができない。「いかなる」とあるので、アルバイト・業務委託・個人事業の区別なく、報酬があれば許可の対象
- 35条(職務に専念する義務):勤務時間中は注意力のすべてを職責に用いる。当番日の待機中に副業の作業をすれば、38条とは別にこの条文に当たる
- 33条(信用失墜行為の禁止):職の信用を傷つける行為の禁止。査察対象の事業者から報酬を受ける形は、副業そのものより「公正さへの疑い」としてここに当たる
- 29条(懲戒):法律・条例・規則に違反した場合、職務上の義務違反、非行があった場合に、戒告・減給・停職・免職の4種の懲戒処分ができる。手続と効果は条例で定める
38条には「勤務時間外なら可」という文言はありません。非番の日であっても、報酬を得て働く以上は許可が要ります。これが「非番なのになぜ」の答えです。
消防士に特有の「重くなる要素」3つ
1. 査察・立入検査の相手方で働く
消防職員は防火対象物の立入検査、消防用設備の検査、危険物施設の検査を職務として行います。その相手方になり得る消防設備業者・防火管理を要する飲食店・ホテル・工場・危険物取扱事業者で報酬を受けて働くと、「検査の手心」を疑われる構図になります。多くの自治体の許可基準は「職務との利害関係がないこと」「公正な職務執行に支障がないこと」を条件に挙げており、この形はそもそも許可が下りにくく、無許可なら38条違反に33条の評価が重なります。消防設備士の資格を持つ消防職員が設備点検の副業をする形は、この典型です。
2. 当番日・当直中に副業の作業をする
交替制の当番日は、出動がなくても待機そのものが勤務です。待機中にスマホで副業の連絡・作業をすれば、38条の無許可に35条の職務専念義務違反が重なります。「非番に働いていた」と「当番中にも働いていた」では評価が変わります。
3. 体力・安全の問題として扱われる
消防の現場活動は身体負荷が大きく、副業による睡眠不足や疲労は「本人の問題」でなく「隊の安全の問題」として扱われます。人事院の指針の「重くする要素」には職務への影響が入っており、副業で当番日の活動に支障が出た事実があれば処分の判断に影響します。許可基準でも「職務の遂行に支障がないこと」は定番の条件です。
処分の標準例と、重くなる要素・軽くなる要素
標準例(人事院「懲戒処分の指針」・兼業の項)
国家公務員の指針では、兼業の承認を得ずに兼業した職員は「減給又は戒告」が標準例です。これは国家公務員の基準ですが、市町村の多くが同じ構造の指針を持ち、消防職員にもその指針が適用されます。
標準例より重くなる場合
- 査察対象・利害関係のある事業者で働いた
- 当番日・勤務時間中に副業の作業をした(35条)
- 期間が長い・収入が大きい・複数の副業を並行していた
- 調査に対して虚偽の説明をした、証拠を隠した
- 過去に同種の注意・処分を受けていた
- 副業で事故・苦情・未払いなどのトラブルを起こし、消防の信用に関わった
標準例より軽くなる場合
- 発覚前に自ら申し出た
- 期間が短い・金額が少ない・すぐにやめた
- 副業先が職務と無関係で、職務への影響がなかった
- 家族の事情など、やむを得ない事情があった
軽くする要素のうち、本人の意思だけで作れるのは「自ら申し出る」だけです。期間や金額は過去にさかのぼって変えられません。
発覚の経路|消防士の場合に多い順
- 住民税の通知:副業の所得が翌年の住民税に乗り、特別徴収税額の通知で本業の給与担当が気づく。給与の副業(アルバイト)は普通徴収に切り替えられない自治体が多く、ほぼ確実に伝わる
- 地域での目撃・通報:消防士は地域に顔が知られた職業で、管内の店舗・現場で働いていれば住民や同僚に見られる。交替制で平日昼間に動けることが、逆に目立つ
- 副業先のトラブル:事故・苦情・賃金未払いなどで副業先が消防本部に連絡する
- SNS・動画:副業の発信に制服・庁舎・車両が写り込む、「現役消防士」を名乗って集客する
発覚までのタイムライン|「去年の副業」はいつ本部に届くか
| 時期 | 起きること |
|---|---|
| 副業した年 | 副業先が給与なら翌年1月末までに市区町村へ給与支払報告書を提出。業務委託なら自分で確定申告(翌年2〜3月) |
| 翌年5〜6月 | 市区町村が住民税額を決定し、本業(消防本部の給与担当)に特別徴収税額の通知を送付。ここで副業分が乗る |
| 翌年6月以降 | 給与担当が前年の給与と税額の差に気づく。本人への確認→調査→懲戒 |
つまり、今年の副業は来年の6月ごろに本業へ届くのが典型です。「まだ何も言われていない」のは、単に通知が来ていないだけの場合があります。
処分以外に失うもの
- 昇任・配置:懲戒歴は人事記録に残り、昇任試験・希望の配置(救助隊・指揮隊など)に影響する
- 給与・退職金:減給は条例の定める割合・期間で給与が減る。停職は無給。免職は退職金の支給制限の対象
- 資格業の信用:消防設備士・危険物取扱者などの資格を使って副業していた場合、処分の事実は業界内で伝わりやすい
- 隊内の信頼:交替制の職場では、副業による疲労や当番中の作業は「隊の安全を軽く見た」と受け取られる
いま無許可でやっている人が今日やること
- やめるか許可を取るかを決める。続けるなら、まず副業を止めてから申請する(続けながらの申請は「現に違反中」として扱われる)
- 自ら申し出る。総務・人事の担当に、期間・内容・収入を隠さず伝える。発覚前の申し出は指針の「軽くする要素」
- 査察対象との関係を整理する。副業先が管内の防火対象物・危険物施設・設備業者なら、その事実も申告する。後から判明するほうが重い
- 税金は正しく申告する。無申告は処分とは別の問題(加算税・延滞税)を生む
これから始める人へ|処分にならない設計の3条件
- 査察・検査の相手方に当たらない副業を選ぶ:執筆・講師・オンラインのスキル販売など、管内の事業者から報酬を受けない形。防災・救急の知識を活かした執筆や教材づくりは、利害関係がなく許可の説明がしやすい。案件の相場はランサーズのようなクラウドソーシングで「防災 記事」「救急 監修」などと検索すると把握できる(受注は許可後に)[PR]
- 当番日には一切触らない:非番・週休に限定し、当番日の待機中に連絡・作業をしない。許可の条件にも「勤務時間外に限る」が付くのが通常
- 先に許可を取る:申請書の書き方は公務員の兼業許可申請の書き方へ。許可が出た範囲で、税金は自分で申告する
税金|許可を取った後の申告
副業の所得(業務委託なら雑所得または事業所得)が年20万円を超えれば所得税の確定申告、20万円以下でも住民税の申告が必要です。許可を取っていれば住民税で本業に伝わっても問題はありませんが、申告自体を怠ると無申告加算税の対象になります。帳簿づけと申告書の作成をまとめて行いたい場合は、弥生のクラウド確定申告ソフトのような会計ソフトを使う方法があります(料金・対応範囲は公式サイトでご確認ください)。[PR]
よくある質問
Q1. 非番の日に家業(実家の農業・商店)を手伝うのは?
報酬を受けなければ38条の「報酬を得て従事」に当たりません。ただし事業主として営む形(自分が経営者)は「自ら営利企業を営む」に当たるので許可が要ります。多くの自治体は家業の承継について許可の運用を持っているので、総務に相談してください。
Q2. 消防設備士の資格で、管外の設備点検をするのは?
管外でも、報酬を得て事業に従事する以上は38条の許可対象です。管外なら利害関係は薄れますが、「消防職員が設備業者側で働く」形は公正さの面で許可が慎重になります。申請して判断を仰いでください。
Q3. 救急救命士として民間救急・イベント救護で働くのは?
報酬があれば38条の許可対象です。無報酬のボランティア救護は対象外ですが、当番日と重ならないこと、事故時の責任の所在を確認しておくことが必要です。
Q4. 既に数年続けている。今さら申し出ると重くなる?
期間の長さは重くする要素ですが、自ら申し出ることは軽くする要素です。発覚してから判明する場合より、自ら申し出るほうが処分は軽い方向に働きます。
Q5. 退職予定なら無許可でもいい?
在職中は38条が適用されます。退職前の無許可副業が発覚すれば、退職前に懲戒処分を受け、退職金の支給制限に関わることがあります。退職後の準備は報酬の出ない範囲(学習・作品づくり・相場の把握)で進めてください。
まとめ|「非番だから」は理由にならない。「申し出たか」で結果が決まる
消防士の無許可副業は、地方公務員法38条違反として標準例「減給または戒告」。査察対象で働く・当番日に作業する・隠すと重くなり、自ら申し出ると軽くなります。交替制で時間があることと、許可が要らないことは別です。始めるなら利害関係のない形を選び、当番日に触れず、先に許可を取る——この3つで処分の問題は消えます。全体像は消防士・救急救命士の副業完全ガイド、公務員全体の許可の考え方は公務員の副業ガイドをどうぞ。
参考にしている主な一次情報:地方公務員法(昭和25年法律第261号)第29条・第33条・第35条・第38条(e-Gov法令検索)/人事院「懲戒処分の指針について」(平成12年職職―68・兼業の項および標準例より重く・軽くする場合の考慮要素)/国税庁「給与所得者で確定申告が必要な人」。
※情報は執筆時点のもので、処分は各市町村の懲戒の指針と個別の事情で判断されます。実際に動く前に、所属の総務・人事担当にご確認ください。

