「国家公務員は兼業が厳しい」「地方公務員は自治体次第で緩い」——よく聞く話ですが、条文を並べると構造はほぼ同じで、違うのは「誰が許可するか」と「基準がどこに書いてあるか」です。国家公務員は国家公務員法103条・104条と人事院規則、地方公務員は地方公務員法38条と各自治体の人事委員会規則・要綱。この記事は、国家公務員(省庁・出先機関・国税・労基・自衛官を除く一般職)と地方公務員(都道府県・市町村・教員・警察・消防)の副業ルールを、「根拠・区分・許可権者・基準・処分・退職後」の6点で並べて比較します。自衛官は自衛隊法に独自の規定があるので自衛官の副業規則へ。
結論:どちらも「報酬を得る兼業は許可制」。国は人事院規則で全国一律、地方は自治体ごとに基準が違う
| 国家公務員 | 地方公務員 | |
|---|---|---|
| 根拠条文 | 国家公務員法103条(営利企業の役員・自営の制限)・104条(報酬を得る兼業の許可) | 地方公務員法38条(1つの条文に両方) |
| 営利企業の役員・自営 | 103条1項で禁止。人事院規則14-8の定めにより、所轄庁の長の申出で人事院の承認を得た場合は適用除外(103条2項) | 38条1項で「任命権者の許可」が必要 |
| 報酬を得る事業・事務への従事 | 104条:内閣総理大臣および所轄庁の長の許可 | 38条1項:任命権者の許可 |
| 基準を定める者 | 人事院(人事院規則・運用通知)=全国一律 | 人事委員会規則(38条2項)・各自治体の要綱=自治体ごと |
| 懲戒 | 82条(免職・停職・減給・戒告)。人事院「懲戒処分の指針」で無承認兼業は「減給又は戒告」 | 29条(戒告・減給・停職・免職)。自治体の指針(多くが人事院指針と同構造) |
| 職務専念義務 | 101条 | 35条 |
| 秘密を守る義務(退職後も) | 100条 | 34条 |
| 退職後の再就職規制 | 106条の2〜106条の4(在職中の求職規制・退職後2年の働きかけ規制等) | 38条の2以下(国に倣った構造。具体化は条例) |
比較①:条文の形——国は「2本」、地方は「1本」
国家公務員は2つの条文に分かれています。103条は「営利企業を営むことを目的とする会社その他の団体の役員・顧問・評議員の職を兼ね、又は自ら営利企業を営んではならない」(原則禁止、人事院の承認で例外)。104条は「報酬を得て、営利企業以外の事業の団体の役員等を兼ね、その他いかなる事業に従事し、若しくは事務を行うにも、内閣総理大臣及びその職員の所轄庁の長の許可を要する」(許可制)。
地方公務員は38条1項の1本に「営利企業の役員を兼ねること・自ら営利企業を営むこと・報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事すること」がまとめて書かれ、いずれも「任命権者の許可」です。
実務上の違いは、国の103条が「原則禁止+承認」の書き方で、役員兼業・自営に対してより抑制的に読めることです。地方は同じ行為も「許可」の枠で扱います。ただし、どちらも「報酬のない活動」は対象外で、「報酬を得る副業は許可(承認)が要る」という帰結は同じです。
比較②:誰が許可するか——国は「大臣+所轄庁の長」、地方は「任命権者」
国家公務員の104条の許可権者は「内閣総理大臣及びその職員の所轄庁の長」で、実務上は各省庁の人事担当が人事院規則・通知に沿って処理します。地方公務員の許可権者は「任命権者」で、知事・市長・教育委員会・警察本部長などです。
この違いが「地方は自治体次第」と言われる理由です。国は人事院の基準が全国一律に適用されるのに対し、地方は38条2項で「人事委員会は、人事委員会規則により許可の基準を定めることができる」とされ、基準が自治体ごとに異なります。不動産賃貸の規模要件、農業の扱い、地域貢献活動への許可基準の有無、講演・執筆の包括許可の有無などは、自治体によって差があります。同じ「講師料をもらう」でも、A市では届出で済みB県では個別許可、ということが起きます。
比較③:許可の基準——書いてある場所が違う
| 国家公務員 | 地方公務員 | |
|---|---|---|
| 基準の所在 | 人事院規則14-8(営利企業の役員等との兼業)、人事院の運用通知 | 人事委員会規則、各自治体の「営利企業等の従事制限に関する要綱」等 |
| 定番の条件 | 職務の遂行に支障がない/職務の公正を妨げない(利害関係がない)/信用を傷つけない/勤務時間外に行う | |
| 自営の線 | 不動産賃貸・駐車場・農業などは人事院規則で一定規模の基準が置かれ、超えると「自営」として承認が必要 | 自治体の要綱で同様の規模基準を置くところが多いが、数値は自治体ごと |
| 地域・公益活動 | 公益的活動への兼業許可の運用が人事院の通知で明確化されている | 地域貢献活動を対象にした許可基準を設ける自治体がある(ない自治体も) |
国家公務員は「人事院規則と通知を読めば全国どこでも同じ答え」、地方公務員は「自分の自治体の要綱を読まないと答えが出ない」。地方公務員の許可申請の書き方は公務員の兼業許可申請の書き方、自治体の最新事情は地方公務員の副業 許可・解禁状況2026へ。
比較④:処分——条文番号は違うが中身は同じ
国家公務員は82条、地方公務員は29条。どちらも「法律に違反した場合」「職務上の義務違反」「非行」を理由に、免職・停職・減給・戒告の4種の懲戒処分ができます。無承認・無許可の兼業は人事院「懲戒処分の指針」で「減給又は戒告」が標準例。地方自治体の多くは人事院指針と同じ構造の指針を持っています。
重くなる要素(勤務時間中の作業=国101条・地方35条の職務専念義務違反、利害関係先での副業、隠蔽、長期高額)と軽くなる要素(自主申告、短期少額、職務に無関係)も共通です。
比較⑤:退職後——国の106条の2以下を、地方の38条の2以下が写している
国家公務員法106条の2以下は、在職中に他の職員の再就職をあっせんすること・在職中に利害関係企業等に求職すること・退職後2年間に古巣の職員へ契約等に関する働きかけをすること、を規制しています。地方公務員法38条の2以下は、この構造に倣って設けられ、具体的な範囲は自治体の条例で定めます。
どちらも「退職後の副業・起業は自由、残るのは古巣への働きかけ禁止と秘密」です。地方公務員の退職後は公務員の退職後の副業・起業・再就職に制限はある?に詳しくまとめています。
「国→地方」「地方→国」で変わること
- 国家公務員から地方公務員へ(出向・転職):人事院の承認・許可は転出先では効力がない。転出先の任命権者に改めて許可を申請する。基準が変わるので、国で認められていた不動産賃貸の規模が地方の要綱では「自営」に当たることがある
- 地方公務員から国家公務員へ:自治体の許可は国では効力がない。103条の役員兼業・自営は人事院の承認が要るので、自治体の許可で続けていた自営(農業・賃貸)は規模基準を確認し直す
- 同じ「公務員」でも雇用形態が違う:国の非常勤職員、地方の会計年度任用職員(パートタイム)は兼業制限の適用が異なる。地方のパートタイム会計年度任用職員は38条の適用外(許可不要)。詳細は会計年度任用職員の副業へ
どちらにも共通する「最初の一歩」
国は104条の許可(103条の承認)、地方は38条の許可——入口は違っても、申請書に書く内容は同じです。「何を・どこで・いつ・どれだけ・いくらで・職務との関係」。中身が決まっていなければ書けません。執筆・講師・制作などの案件の相場は、ランサーズのようなクラウドソーシングで募集を眺めると把握できます(受注は許可の後に)。[PR]
税金|国も地方も同じ
許可を取った副業の所得(雑所得・事業所得)が年20万円を超えれば所得税の確定申告、20万円以下でも住民税の申告が必要です。給与の副業は住民税が本業で特別徴収されるのが原則で、業務委託の所得は普通徴収を選べるのが一般的。帳簿づけと申告書の作成をまとめて行いたい場合は、弥生のクラウド確定申告ソフトのような会計ソフトを使う方法があります(料金・対応範囲は公式サイトでご確認ください)。[PR]
よくある質問
Q1. 国家公務員は「副業解禁」されていない?
103条・104条の文言は変わっていません。人事院が公益的活動への兼業許可の運用を明確化するなど、許可制の枠内での運用の明確化が進んでいます。詳細は国家公務員の副業解禁はいつから?へ。
Q2. 地方のほうが緩いというのは本当?
条文の構造は同じです。自治体によって基準が異なるため、「地域貢献活動の許可基準がある自治体」では許可が出やすい一方、基準のない自治体では国より保守的な運用のこともあります。「地方=緩い」ではなく「地方=自治体次第」です。
Q3. 国家公務員の「承認」と「許可」は何が違う?
103条(営利企業の役員・自営)は「人事院の承認」で適用除外になる形、104条(報酬を得る事業・事務)は「内閣総理大臣及び所轄庁の長の許可」です。どちらも実務上は所属の人事担当に申請します。
Q4. 教員・警察官・消防士は「地方公務員」のルール?
公立学校の教員(教育公務員特例法17条で兼職の特例あり)、都道府県警察の警察官、市町村の消防職員はいずれも地方公務員で、38条と自治体の基準が適用されます。国の機関に勤める教員・警察庁職員は国家公務員です。
Q5. 株式投資・不動産賃貸はどちらも同じ扱い?
株式の売買は「事業」に当たらず、国も地方も許可不要が原則です。不動産賃貸は規模によって「自営」に当たり、国は人事院規則の基準、地方は自治体の要綱の基準で判定されます。数値は国と自治体で異なることがあります。詳細は公務員の不動産・株式投資は副業になる?へ。
まとめ|構造は同じ、違うのは「許可権者」と「基準の所在」
国家公務員は103条・104条+人事院規則で全国一律、地方公務員は38条+自治体の規則・要綱で自治体ごと。報酬を得る副業は許可制、無許可は減給または戒告、退職後は働きかけ規制と秘密が残る——ここは共通です。自分の身分がどちらかを確認し、国なら人事院の基準、地方なら自治体の要綱を読んでから申請する。全体像は公務員の副業ガイドをどうぞ。
参考にしている主な一次情報:国家公務員法(昭和22年法律第120号)第82条・第100条・第101条・第103条・第104条・第106条の2/人事院規則一四―八(営利企業の役員等との兼業)/地方公務員法(昭和25年法律第261号)第29条・第34条・第35条・第38条・第38条の2(いずれもe-Gov法令検索)/人事院「懲戒処分の指針について」(兼業の項)/国税庁「給与所得者で確定申告が必要な人」。
※情報は執筆時点のもので、国の各省庁の運用・各自治体の許可基準は個別に異なります。実際に動く前に、所属の人事担当にご確認ください。
