警察官の退職後の進路として多いのが、警備業・探偵業・企業の危機管理部門・防犯コンサルです。ここで気になるのが、「元警察官であることは、警備業や探偵業の欠格事由になるのか」「古巣(警察本部・警察署)との関係で何か制限が残るのか」「在職中の処分歴は影響するのか」です。結論から言えば、元警察官であること自体は警備業法・探偵業法のどちらでも欠格事由ではなく、残る制限は地方公務員法38条の2(退職後2年間の古巣への働きかけ禁止)と34条(秘密)の2つです。この記事は、警備業法3条・探偵業法3条・地方公務員法38条の2を根拠に、警察官の退職後の副業・起業・再就職の線を整理します。在職中の副業の線は警察官の副業は禁止?どこまでOK?、発覚と処分は警察官の副業はバレる?バレたらどうなる?へ。
結論:退職後の副業・起業は自由。警備業・探偵業は元警察官でも開業できる。縛られるのは「古巣への営業」と「秘密」
| 退職後にやりたいこと | 規制 | 見立て |
|---|---|---|
| 警備会社に就職・警備員として働く | 警備業法14条(18歳未満・3条1〜7号該当者は警備員になれない) | ◎ 元警察官は欠格事由ではない。在職中に拘禁刑以上の刑を受けていれば5年間は不可 |
| 警備業を開業する(認定) | 警備業法3条(欠格事由)・4条(公安委員会の認定) | ◎ 元警察官は欠格事由ではない。警備員指導教育責任者の選任が必要 |
| 探偵業を開業する(届出) | 探偵業法3条(欠格事由)・4条(公安委員会への届出) | ◎ 元警察官は欠格事由ではない |
| 防犯コンサル・講師・執筆 | なし | ◎ 34条(秘密)の範囲で |
| 古巣(警察本部・署)に自社のサービスを営業する | 地方公務員法38条の2 | △ 退職後2年間、離職前5年間に在籍した組織への契約等に関する働きかけは不可 |
| 捜査で知った情報・内部資料を使う | 地方公務員法34条 | ✕ 退職後も永続 |
線①:警備業法——元警察官は欠格事由ではない
警備業法3条は、警備業を営んではならない者(欠格事由)を列挙しています。破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者、拘禁刑以上の刑・警備業法違反の罰金刑から5年を経過しない者、最近5年間に警備業務に関し重大な不正行為をした者、暴力的不法行為のおそれがある者、暴力団関係の命令を受けて3年を経過しない者、アルコール・薬物の中毒者、心身の障害で適正に行えない者、未成年者、指導教育責任者を選任できない者、役員に該当者がいる法人など。「元警察官」「元公務員」はどこにも入っていません。
14条は警備員の制限で、18歳未満と3条1〜7号の該当者は警備員になれないとしています。つまり、在職中に拘禁刑以上の刑を受けて退職した場合は5年間警備員になれませんが、懲戒処分(戒告・減給・停職・免職)は刑罰ではないので、それだけで欠格事由にはなりません。
警備業を開業するには公安委員会の認定(4条)が必要で、営業所ごと・業務区分ごとに警備員指導教育責任者を選任する必要があります(3条9号・22条)。元警察官が指導教育責任者の資格を取る場合、警察官としての経験が講習の一部免除に関わることがあるので、公安委員会の案内で確認してください。
線②:探偵業法——同じく元警察官は欠格事由ではない
探偵業法3条の欠格事由は、破産で復権を得ない者、拘禁刑以上の刑・探偵業法違反の罰金刑から5年を経過しない者、最近5年間に営業停止等の処分に違反した者、暴力団員・暴力団員でなくなって5年を経過しない者、心身の故障で適正に行えない者、未成年者、役員に該当者がいる法人です。ここにも元警察官は入っていません。探偵業の開始には営業所ごとに公安委員会への届出(4条)が必要です。
注意点は、探偵業法が「調査の結果を犯罪行為・違法な差別的取扱いに用いない」ことを義務づけており(6条〜)、依頼内容の確認・契約書面の交付などの規制があることです。警察官時代の「捜査」と、探偵業法上の「調査」は別の規律で動きます。
線③:地方公務員法38条の2——退職後2年間の「古巣への働きかけ」禁止
38条の2第1項は、退職して営利企業等の地位に就いた元職員(再就職者)が、離職前5年間に在籍していた執行機関の組織等の職員に対し、その自治体とその企業等との契約・処分に関する事務で離職前5年間の職務に属するものについて、離職後2年間、職務上の行為をするよう・しないよう要求・依頼することを禁じています。
警察官の場合、「執行機関の組織等」は都道府県警察(警察本部・警察署)です。具体的には次の形が当たります。
- 退職後に入った警備会社の営業として、古巣の警察署の施設警備・交通誘導の契約を取りに行く
- 自分で設立した防犯機器の会社の製品を、元の部署に売り込む
- 自分の探偵業・調査業で、元の部署に情報提供や便宜を依頼する
逆に、古巣と無関係の民間企業・個人を顧客にする警備・探偵・コンサルは、38条の2とは関係ありません。違反には自治体(人事委員会等)の調査・公表の仕組みと条例に基づく制裁が置かれており、働きかけを受けた現職の職員も懲戒の対象になります。
線④:34条——捜査で知ったことは退職後も出せない
34条の秘密を守る義務は退職後も続きます。警察官が職務上知り得た秘密は、捜査情報・被疑者や被害者の個人情報・内部の運用・未公開の手法など広範です。退職後の探偵業・コンサル・執筆・講演で、
- 在職中の事件の非公開情報を使う
- 警察のデータベースで知った個人情報を使う
- 内部の捜査手法・体制を「元警察官が教える」と売りにする
といった形は34条違反(罰則あり)です。「元警察官」と名乗ること自体は禁じられていませんが、売り物にできるのは公開情報と一般化した経験に限られます。
在職中の処分歴は退職後にどう影響するか
| 在職中の出来事 | 警備業・探偵業への影響 | 備考 |
|---|---|---|
| 懲戒処分(戒告・減給・停職) | 法律上の欠格事由ではない | 採用時の身元確認・信用の面で影響することはある |
| 懲戒免職 | 法律上の欠格事由ではない | 同上。退職金の支給制限の対象 |
| 拘禁刑以上の刑 | 警備業・探偵業とも5年間は欠格 | 警備業法3条2号・探偵業法3条2号 |
| 無許可副業での処分 | 欠格事由ではない | 処分歴として残る。退職前に自ら申し出て軽く済ませるほうが、退職後の信用にも効く |
退職前にできること|許可がいらない範囲で土台を作る
- 資格の取得:警備員指導教育責任者・機械警備業務管理者などの講習・試験は、在職中に受けても38条(報酬を得る事業・事務)には当たらない。公安委員会の講習日程を確認
- 防犯・危機管理の執筆・講師の実績づくり:報酬を得るなら38条の許可を取って。無報酬の地域の防犯講話は対象外
- 案件の相場を知る:防犯・セキュリティ分野の記事監修・企業研修の案件は、ランサーズのようなクラウドソーシングで「防犯 監修」「セキュリティ 記事」などと検索すると把握できる(在職中の受注は許可の後に)[PR]
- 取引先への個人的な就職活動はしない:在職中の求職規制(自治体の条例・規則)に当たる。再就職の相談は人事の正規ルートで
税金|退職後の最初の1年
警備会社に就職すれば給与所得、探偵業・コンサルを開業すれば事業所得、年金が始まれば雑所得。退職した年は退職所得の扱い(退職所得の受給に関する申告書を出していれば通常は申告不要)を確認してください。開業した場合は開業届と青色申告の選択で控除が変わります。退職後の所得はどこも年末調整をしてくれないので、1年分の収入と経費を自分で集計することになります。帳簿と申告書を一か所で済ませたい場合は、弥生のクラウド確定申告ソフトのような会計ソフトを使う方法があります(料金・対応範囲は公式サイトでご確認ください)。[PR]
よくある質問
Q1. 元警察官は警備業の認定で優遇される?
法律上の優遇規定はありません。警備員指導教育責任者講習の受講資格・免除に警察官の経験が関わることはあるので、公安委員会の案内で確認してください。
Q2. 退職後すぐに古巣の警察署の警備契約を取りに行くのは?
退職後2年間は38条の2により、離職前5年間に在籍した組織への契約に関する働きかけができません。営業担当でない役割で入るか、2年経過後に公的な調達手続で対応する形になります。
Q3. 探偵業で「元刑事」と名乗って集客するのは?
名乗ること自体は禁じられていません。ただし、在職中の事件・個人情報・内部の手法を売りにすれば34条違反です。探偵業法の規制(契約書面・調査目的の確認)も別途かかります。
Q4. 退職前に副業で処分を受けた。警備業に就けない?
懲戒処分は刑罰ではないので欠格事由にはなりません。拘禁刑以上の刑を受けた場合のみ5年間の欠格です。
Q5. 国家公務員の警察官(警察庁・皇宮警察)も同じ?
国家公務員法106条の2以下に同じ構造の再就職規制(退職後2年の働きかけ規制等)があり、100条の秘密を守る義務も退職後に続きます。警備業法・探偵業法の欠格事由は身分にかかわらず同じです。
まとめ|警備も探偵も開業できる。避けるのは「古巣への営業」と「捜査情報」だけ
元警察官であることは警備業法3条・14条、探偵業法3条のいずれでも欠格事由ではなく、退職後の副業・起業・再就職は自由です。残るのは地方公務員法38条の2(退職後2年間、離職前5年の組織への契約等に関する働きかけ禁止)と34条(秘密・永続)の2つ。在職中は許可不要の範囲(資格取得・無報酬の講話)で土台を作り、許可を取って実績を積み、退職後は古巣と無関係の顧客を軸にする——この順番が、規制に触れずに退職後の収入を作る線です。公務員全体の退職後は公務員の退職後の副業・起業・再就職に制限はある?をどうぞ。
参考にしている主な一次情報:警備業法(昭和47年法律第117号)第3条・第4条・第14条・第22条/探偵業の業務の適正化に関する法律(平成18年法律第60号)第3条・第4条・第6条/地方公務員法(昭和25年法律第261号)第34条・第38条・第38条の2/国家公務員法(昭和22年法律第120号)第100条・第106条の2(いずれもe-Gov法令検索)/国税庁「退職金と税」「給与所得者で確定申告が必要な人」。
※情報は執筆時点のもので、再就職規制の具体的な範囲は各都道府県の条例・人事委員会規則、警備業・探偵業の手続は各公安委員会の案内によります。実際に動く前に、所属の人事担当と公安委員会にご確認ください。

