医師の「当直バイト」「外勤」は、他の職業の副業と比べて制度の作りがまったく違います。派遣は法律で禁止、雇用は直接雇用が原則、労働時間は2024年4月から上限規制の対象——この3点を知らずに「条件のいい当直を増やす」と、自分ではなく本業の病院が法令違反になる構造になっています。この記事は、医師の当直・外勤バイトを「派遣法・労働基準法141条・医療法」の条文から整理し、勤務医(民間・公立・大学)がどの線を見て副業を組めばよいかをまとめます。副業の可否そのもの(公立の許可制・就業規則)は医師の副業はどこまでOK?に分けてあります。
結論:当直バイトは「直接雇用」で、「年960時間の上限」を本業と合算して管理される
| 論点 | 結論 | 根拠 |
|---|---|---|
| 派遣会社を通した当直は可能か | ✕ 病院・診療所での医業は派遣禁止(へき地・紹介予定派遣などの例外を除く) | 派遣法4条1項3号・同施行令2条1号 |
| 「紹介」と「派遣」の違い | 医師バイトの仲介会社は職業紹介。雇用契約はバイト先の病院と直接結ぶ | 同上(派遣でない形だから可能) |
| 労働時間の上限 | 時間外・休日労働は原則 月100時間未満・年960時間。副業先の時間も通算 | 労基法141条・同施行規則69条の4/労基法38条 |
| 本業への申告義務 | 副業先の労働時間は本業が把握して通算管理する仕組み。自己申告が前提 | 労基法38条(通算)・医療法125条(休息時間の確保のための協力) |
| 管理者(院長)の兼務 | 原則不可。他院の管理者を兼ねるには知事の許可 | 医療法12条2項 |
| 公立病院の勤務医 | 地方公務員=許可制。許可なしの当直バイトは懲戒対象 | 地方公務員法38条 |
線①:医師の当直は「派遣」できない——施行令2条1号
労働者派遣法4条1項3号は「業務の実施の適正を確保するためには派遣で従事させることが適当でない業務」を政令で定めて派遣禁止にしています。その政令(施行令2条)の1号が医師の部分で、「医師法17条に規定する医業」のうち、病院・診療所・助産所・介護老人保健施設・介護医療院・居宅などで行われるものが禁止対象です。例外は、紹介予定派遣(派遣先での直接雇用を前提とするもの)、就業場所がへき地にある場合、地域の医療確保のために厚生労働省令で定める場所、などに限られます。
したがって、医師の当直・外勤バイトは派遣ではなく直接雇用の形で行われます。医師バイトの仲介サイト・会社が扱っているのは「職業紹介」で、紹介を受けた後の雇用契約はバイト先の病院・診療所と医師が直接結びます。「派遣会社に雇われて病院に派遣される」形は、通常の病院では法律上できません。「派遣で当直」という表現の求人を見たら、実態は紹介か、へき地などの例外かを確認してください。
線②:2024年4月からの上限規制——副業先の時間も「通算」される
労働基準法141条は、医業に従事する医師について36協定の特例を定め、時間外・休日労働の上限を「労働者の健康及び福祉を勘案して厚生労働省令で定める時間」としています。その省令(労基法施行規則69条の4・69条の5)が定める時間は1か月100時間未満・1年960時間です(面接指導等の措置を前提に月の上限が外れる場合あり)。これが医師の働き方改革の「A水準」で、救急医療などで医師をやむを得ず長時間従事させる病院は医療法113条以下の指定(特定地域医療提供機関など)を受け、別の上限が適用されます。
ここで効いてくるのが労働基準法38条の「労働時間は、事業場を異にする場合においても通算する」です。本業の病院での時間外と、当直バイト先での労働時間は合算されます。本業で年800時間の時間外をしている医師が、外勤で年200時間働けば、合算で上限を超え、上限を超えた時点で使用者側(本業・バイト先の双方)が労基法違反になります。医療法125条は、特定労務管理対象機関の管理者が複数の病院に勤務する医師の休息時間確保のために他院の管理者へ協力を求められると定めており、病院同士が医師の勤務を突き合わせる仕組みが置かれています。
つまり、2024年4月以降の当直バイトは「本業に申告した時間の範囲で組む」ものになりました。申告せずに外勤を増やすことは、自分の処分の問題である前に、本業の病院を法令違反に追い込む行為です。本業が兼業先の労働時間の申告を求め、外勤の制限や調整を行うのは、この構造の帰結です。
線③:宿日直許可のある当直は「労働時間に数えない」——ただし許可の有無で変わる
当直の中には、労働基準監督署の宿日直許可を受けた「ほとんど労働する必要のない勤務」があります。許可を受けた宿日直は労基法上の労働時間規制の適用除外となり、上限時間の計算に入りません。反対に、許可のない当直や、許可があっても通常業務(救急対応が頻繁など)が生じた時間は労働時間です。
副業として当直を選ぶとき、「そのバイト先の当直に宿日直許可があるか」は、報酬より先に確認する項目です。許可のある当直なら上限時間を圧迫せず、本業への申告も「宿日直許可あり」として扱われます。許可のない当直を増やせば、上限に直撃します。求人に「宿日直許可取得済」と書いてあるかどうか、なければバイト先に直接確認してください。
線④:勤務先の種類で「副業の入口」が違う
| 勤務先 | 身分 | 副業の入口 |
|---|---|---|
| 民間病院・医療法人 | 労働者 | 就業規則の副業規定(届出制・許可制)。外勤の申告と上限管理 |
| 公立病院(自治体立) | 地方公務員 | 地方公務員法38条の許可。多くの自治体が医師の外勤・当直について許可の運用を持つ。無許可は懲戒(標準例は減給または戒告) |
| 国立大学法人・国立病院機構等 | 法人の職員(非公務員) | 各法人の就業規則・兼業規程。大学は教育研究との関係で兼業規程が詳細 |
| 開業医(管理者) | 事業主 | 他院の管理者を兼ねるには医療法12条2項の知事許可。勤務医として他院に勤めること自体は可 |
公立病院の勤務医は、「医師はみんな外勤している」という慣行があっても、許可を取っていなければ地方公務員法38条違反です。自治体の多くは医師の兼業について包括的な許可や届出の運用を持っているので、人事に確認し、書面の許可を取ってください。
当直バイトを組む手順|「本業の上限」から逆算する
- 本業の時間外の年間見込みを出す:直近1年の時間外・休日労働の実績を給与明細・勤怠から集計する。上限は年960時間(特定労務管理対象機関は別)
- 残り枠を計算する:960時間から本業の見込みを引いた分が、許可のない当直・外勤に使える上限の目安。月100時間未満の制約も月ごとに見る
- 宿日直許可のある当直を優先する:上限に入らない。求人で許可の有無を確認
- 本業に申告する:兼業先・日時・労働時間・宿日直許可の有無。公立は38条の許可申請、民間・法人は就業規則の届出
- 休息時間(勤務間インターバル)を確保する:医療法123条以下の休息時間の確保は本業側の義務で、外勤明けに本業の勤務が続く組み方は本業から止められる
税金|当直・外勤の報酬は「給与」。確定申告はほぼ必ず必要
当直・外勤バイトの報酬は、バイト先の病院からの給与所得です(業務委託の形を取る産業医・健診などは報酬・雑所得の場合あり)。給与が2か所以上になると、年末調整されない側の給与収入と他の所得の合計が年20万円を超える場合は確定申告が必要で、医師の外勤はほぼこれに当たります。複数のバイト先から源泉徴収票を集め、本業の分と合わせて申告します。
外勤先が3〜4か所になると、源泉徴収票・支払調書・医師賠償責任保険や学会費などの経費の整理が毎年の作業になります。帳簿と申告書を一か所で済ませたい場合は、弥生のクラウド確定申告ソフトのような会計ソフトを使う方法があります(料金・対応範囲は公式サイトでご確認ください)。[PR]
当直以外の「時間に縛られない」副業
上限規制の下では、労働時間に数えられる副業(当直・外勤)は本業の残り枠でしか組めません。一方、業務委託の副業(医療記事の監修・執筆・医療機器や製薬の資料作成・講演)は労基法38条の通算の対象外で、上限規制を圧迫しません。報酬の単価は当直に及びませんが、時間の制約がなく、専門領域の執筆は継続案件になりやすい分野です。案件の相場はランサーズのようなクラウドソーシングで「医師 監修」「医療 記事」などと検索すると把握できます(受注は本業の許可・届出の後に)。[PR]
よくある質問
Q1. 本業に外勤を申告しないまま続けている。何が起きる?
公立なら地方公務員法38条違反の懲戒、民間・法人なら就業規則の手続違反です。それに加え、通算した労働時間が上限を超えていれば本業の病院が労基法違反を問われ、2024年以降はこの点が重く見られます。住民税の通知(翌年6月)で給与が2か所以上あることは本業に伝わるので、発覚前に申告してください。
Q2. 宿日直許可のある当直なら、いくらでも入れていい?
上限時間の計算には入りませんが、医療法の休息時間の確保(勤務間インターバル)は別に働きます。本業の勤務と連続する組み方は本業側から調整されます。
Q3. 「派遣」と書いてある医師求人は違法?
病院等での医業は派遣禁止なので、通常の病院の求人で実態が派遣なら問題です。多くは職業紹介(雇用契約はバイト先と直接)で、言葉の使い方の問題です。契約書の相手方がバイト先の病院になっているかで確認できます。
Q4. 大学病院の医局からの「派遣」は派遣法の派遣?
医局人事による関連病院への勤務は、通常その病院に直接雇用される形で、派遣法の「労働者派遣」ではありません。医療法118条の「連携型特定地域医療提供機関」の派遣も、労働時間短縮計画の下での勤務の枠組みで、派遣法の派遣とは別の制度です。
Q5. 開業したら当直バイトはできる?
勤務医として他院に雇われること自体は可能です。ただし自院の管理者(院長)である以上、医療法12条2項により他院の管理者を兼ねることはできず(知事の許可がある場合を除く)、自院の管理に支障が出る勤務は避ける必要があります。
まとめ|当直バイトは「派遣不可・直接雇用・上限は本業と通算」
医師の当直・外勤は、派遣法施行令2条1号で派遣ができないため直接雇用で行われ、労基法141条・施行規則69条の4の上限(月100時間未満・年960時間)に本業と通算して収まる範囲でしか組めません。宿日直許可のある当直は上限に入らず、業務委託の執筆・監修は通算の対象外。公立は38条の許可、民間・法人は就業規則の届出を先に通し、本業に時間を申告して組む——これが2024年以降の医師の副業の形です。副業の可否の線引きは医師の副業はどこまでOK?をどうぞ。
参考にしている主な一次情報:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律 第4条/同法施行令 第2条/労働基準法 第38条・第141条/労働基準法施行規則 第69条の4・第69条の5/医療法 第12条・第113条・第118条・第125条/地方公務員法 第38条(いずれもe-Gov法令検索)/国税庁「給与所得者で確定申告が必要な人」。
※情報は執筆時点のもので、特定労務管理対象機関の上限、宿日直許可の有無、各病院・自治体の兼業の運用は個別に異なります。実際に動く前に、本業の人事・労務担当にご確認ください。
