部活動の地域移行が進むと、指導に関わる人の立場と報酬の出どころが変わります。「これまで顧問として無償に近い形でやっていた指導が、報酬の出る仕事になるのか」「教員が地域クラブ側で指導したら、それは副業なのか」——ここが分かりにくいのは、「部活動指導員」と「地域クラブの指導者」がまったく別の制度だからです。結論から言うと、部活動指導員は学校教育法施行規則78条の2に置かれた学校の職員で、地域クラブの指導者は学校の外の契約相手です。立場が違えば、報酬の性質も、教員が関わるときの根拠条文も変わります。この記事は、規則78条の2・地方公務員法38条・教育公務員特例法17条・所得税法121条を根拠に、報酬がどこから出てどう課税されるのかを整理します。承認の申請そのものは兼業承認の理由欄の書き方、土日で組む場合は教員が土日だけ教える副業の組み方へ。
結論:立場が3つに分かれる。報酬の性質もそこで決まる
| 立場 | 誰と契約するか | 報酬の性質 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 部活動指導員 | 学校設置者(多くは市町村・都道府県) | 職員としての給与・報酬(会計年度任用職員として任用される例が多い) | 学校教育法施行規則78条の2 |
| 地域クラブの指導者 | クラブ・団体・運営法人 | 業務委託の報酬、または雇用契約の賃金。団体ごとに違う | 各団体の契約 |
| 教員が地域クラブ側で指導 | クラブ・団体 | 報酬を得るなら承認・許可が要る | 教特法17条1項/地公法38条1項 |
「地域移行したから自動的に報酬が上がる」わけではありません。上がるかどうかは、その地域クラブの財源(会費・自治体の委託料・補助金)がどれだけあるかで決まります。制度が変えるのは金額ではなく、誰が誰に払うかという線です。
線①:部活動指導員は「学校の職員」である
学校教育法施行規則78条の2は、部活動指導員について次のように定めています。
部活動指導員は、中学校におけるスポーツ、文化、科学等に関する教育活動(中学校の教育課程として行われるものを除く。)に係る技術的な指導に従事する。
短い条文ですが、ここから読み取れることが3つあります。第一に、「中学校における」教育活動だということ。つまり学校が主体で行う活動です。第二に、「教育課程として行われるものを除く」——授業ではない、という切り分けです。第三に、「技術的な指導に従事する」——顧問としての指導が職務そのものになります。
この規則は、部活動指導員を学校の職員として置けることを示しています。だから報酬は学校設置者から出ますし、多くの自治体では会計年度任用職員として任用する形をとっています。任用されれば、勤務時間・報酬・費用弁償は自治体の条例と規則で決まります。金額を知りたければ、その自治体の「会計年度任用職員の報酬に関する条例・規則」を見るのが早いのはこのためです。
線②:地域クラブの指導者は「学校の外」にいる
一方、地域移行によって活動そのものが学校からクラブや地域団体に移った場合、そこで指導する人は学校の職員ではありません。契約相手はクラブや運営法人であり、業務委託か、そのクラブに雇われるかのどちらかになります。ここが部活動指導員との決定的な違いです。
| 比べる点 | 部活動指導員 | 地域クラブの指導者(業務委託) |
|---|---|---|
| 報酬の呼び名 | 報酬・給与 | 委託料・指導料 |
| 税務上の所得区分 | 給与所得 | 事業所得または雑所得 |
| 経費 | 給与所得控除で自動計算 | 実額で経費にできる(交通費・用具・資格更新料など) |
| 労働時間の通算 | 雇用なので通算の対象になりうる | 雇用ではないので労基法38条1項の通算の対象外 |
| 事故のときの扱い | 公務災害・労災の枠組み | 団体の保険の内容による。加入の有無を先に確認する |
業務委託を選ぶなら、保険を自分で確認してください。指導中の事故は、子どもの怪我と自分の怪我の両方があり得ます。団体がスポーツ安全保険などに入っているか、指導者本人が補償の対象に含まれるかは、契約前に文書で確かめておく類のことです。
線③:教員が地域クラブ側で報酬を受けるとき、根拠はどちらか
ここが実務でいちばん迷うところです。地方公務員法38条1項は、職員が「報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事」するには任命権者の許可が要るとしています。他方、教育公務員特例法17条1項は、「教育に関する他の職を兼ね、又は教育に関する他の事業若しくは事務に従事すること」が本務の遂行に支障がないと任命権者が認める場合には、給与を受けて従事できるとしています。
地域クラブでの技術指導は、内容としては教育に関する事業に当たると整理されることが多く、その場合は17条の承認で扱われます。ただしどちらの条文で扱うかを決めるのは、あなたではなく任命権者(県費負担教職員なら市町村教育委員会)です。自分で「17条だから届出だけでよい」と判断して手続きを省くのが、いちばん危ない進め方です。実際の運用は自治体ごとの取扱要領で定められているので、所属の事務担当に「地域クラブでの指導は17条と38条のどちらで出すか」を先に聞いてください。
なお17条2項は、非常勤の講師には1項を適用しないと定めています。非常勤講師は地公法38条1項ただし書により、そもそも許可の対象から外れる立場です。同じ「学校で教える人」でも、常勤か非常勤かで前提が変わります。
線④:報酬にかかる税——20万円で切れるのは所得税だけ
所得税法121条は、給与の年収が2,000万円以下で、1か所から給与を受けて年末調整を受けている人について、給与所得と退職所得以外の所得の合計が20万円以下なら確定申告書の提出を要しないとしています。指導料が年間20万円以下なら、所得税の確定申告は不要になり得ます。
ただし住民税は別です。地方税法317条の2は、市町村民税の納税義務者は3月15日までに申告書を市町村長に提出しなければならないと定めたうえで、給与支払報告書が提出される給与所得者で給与所得以外の所得がなかった者を、ただし書で除外しています。つまり給与以外に指導料の所得がある時点で、この除外に当たらなくなります。「20万円以下だから何もしなくていい」は誤りで、正しくは「所得税の申告は要らないが、住民税の申告は要る」です。
| 指導料が年20万円以下 | 所得税の確定申告 | 住民税の申告 |
|---|---|---|
| 給与として受け取る(部活動指導員など) | 2か所給与になるので原則必要(金額により例外あり) | 確定申告をすれば不要 |
| 業務委託の報酬として受け取る | 不要にできる(所得税法121条1項) | 必要(地方税法317条の2) |
業務委託で受け取るなら、報酬の入金記録と経費の領収書は最初の月から分けて残してください。年をまたいでから集めるのは現実的ではありません。件数が増えてきたら会計ソフトに寄せるほうが早く、弥生シリーズのように口座やカードの明細を取り込んで仕訳する形のものを使うと、申告時に集計し直す手間が減ります。[PR]
報酬だけで見ないほうがいい理由
地域移行に関わる指導の報酬は、多くの場合、活動の回数と時間に連動します。週末に数時間、シーズン中だけ、という形が中心になるため、収入としては上限が見えやすいのが実態です。指導そのものにやりがいがあるとしても、収入を増やす手段として設計するなら、時間あたりの単価と、繁忙期が本務とぶつからないかを先に見ておくほうが現実的です。
教える力を収入に変える方向で考えるなら、活動場所を学校の外に置く選択もあります。たとえばよみかきそろばんくらぶのオンライン先生募集は、自宅からZoomで個別に指導する形で、雇用契約でも業務請負契約でもない講師登録という契約形態です(源泉徴収が行われないため、所得額によっては自分で確定申告をすることになります)。月曜〜土曜の7〜21時の中から可能な時間を選ぶ形なので、シーズンによって指導の負荷が変わる人でも枠を調整しやすい組み方ができます。応募には大卒であること・長期(最低3年以上)続けられることといった条件があり、Zoomに必要な機材や回線は自分で用意します。在職中の方は、契約の形にかかわらず先に承認・許可の手続きを済ませてください。条件や募集状況は変わることがあるため、最新の内容は公式サイトでご確認ください。[PR]
やることの順番
- 自分の立場を確定する。学校設置者に任用されるのか、クラブと契約するのかを文書で確認する
- 報酬の性質を確認する。給与か、業務委託の報酬か。源泉徴収の有無で判断できる
- 在職中なら承認・許可を先に取る。17条か38条かは任命権者に確認し、自己判断で省かない
- 保険を確認する。指導中の事故で自分と子どもの双方が対象になるか
- 記録を分けて残す。報酬の入金と経費を、初月から本業の口座と分ける
よくある疑問
Q. 交通費だけ受け取る場合も許可が要りますか。
実費弁償として支給される交通費は、一般に報酬とは別に扱われます。ただし「報酬ではない」と自分で判断せず、支給の名目と金額の根拠を示して任命権者に確認してください。実費を超える部分があれば報酬性が問題になります。
Q. 無償のボランティアなら手続きは不要ですか。
地公法38条1項が許可の対象にしているのは、営利企業の役員等を兼ねる場合と、報酬を得て事業・事務に従事する場合です。無報酬なら38条1項の許可の対象からは外れますが、職務専念義務(地公法30条・35条)との関係は残ります。多くの自治体で届出を求めているので、所属に確認するのが確実です。
Q. 部活動指導員と地域クラブの指導者を掛け持ちできますか。
制度上は別の契約なので併存し得ますが、それぞれについて手続きが必要です。給与が2か所になると年末調整が1か所でしかできないため、確定申告が要る形に変わります。
参考にしている主な一次情報:学校教育法施行規則(昭和22年文部省令第11号)第78条の2/地方公務員法(昭和25年法律第261号)第30条・第35条・第38条/教育公務員特例法(昭和24年法律第1号)第17条/所得税法(昭和40年法律第33号)第121条/地方税法(昭和25年法律第226号)第317条の2。条文はe-Gov法令検索で確認しています。
※情報は執筆時点のものです。部活動の地域移行の進め方、指導者の任用形態、報酬の額は自治体・団体ごとに異なり、今後も変わります。実際の手続きは所属の教育委員会・事務担当と、契約先の団体にご確認ください。この記事は特定の団体への応募を勧めるものではありません。

