ケアマネジャー(介護支援専門員)の副業は、介護職の中でも特に線が引きにくい立場です。理由は、介護保険法がケアマネにだけ課している義務が4つあるからです。公正誠実義務(69条の34)、名義貸しの禁止(69条の35)、信用失墜行為の禁止(69条の36)、守秘義務(69条の37)。特に公正誠実義務は「特定の事業者に不当に偏ることのないよう」と定めており、副業先が介護サービス事業者だと、この条文に触れる可能性が出てきます。この記事は、条文からケアマネが選べる副業・避けるべき副業を切り分けます。介護職一般の線は介護職の副業の規則へ。
結論:「自分が紹介できる事業者」から報酬を受けない
| 副業の形 | 判断 | 根拠 |
|---|---|---|
| 自分が担当する利用者に紹介し得る事業者で働く/報酬を受ける | 🔴避ける | 69条の34第1項(公正誠実義務) |
| 介護分野の記事の執筆・監修 | 🟢向く | 特定事業者への偏りが生じない |
| ケアマネ受験対策の講師・教材作成 | 🟢向く | 同上 |
| 他法人での介護業務(訪問介護など) | 🟡要確認 | 公正誠実義務との関係。勤務先の規定も |
| 資格や名義を他人に使わせる | 🔴不可 | 69条の35(名義貸しの禁止) |
| 利用者の事例をSNS・ブログに書く | 🔴不可 | 69条の37(守秘義務) |
線①:公正誠実義務——ケアマネ最大の制約
介護保険法69条の34第1項は次のように定めています。
「介護支援専門員は、その担当する要介護者等の人格を尊重し、常に当該要介護者等の立場に立って、当該要介護者等に提供される居宅サービス、地域密着型サービス、施設サービス……が特定の種類又は特定の事業者若しくは施設に不当に偏ることのないよう、公正かつ誠実にその業務を行わなければならない」
ケアマネの仕事は、利用者にどのサービス・どの事業者を紹介するかを組み立てることです。そこに「特定の事業者に不当に偏ってはいけない」という義務がかかっています。
副業の観点で問題になるのは、自分が報酬を受け取っている事業者を、自分の担当利用者に紹介できる立場にあるという状況です。実際に偏った紹介をしていなくても、報酬を受けている関係そのものが公正さへの疑いを生みます。
だから判断の基準はシンプルで、「自分が紹介し得る事業者から報酬を受けない」。これを守れる副業を選ぶ、というのが出発点になります。同法69条の34第2項は、厚生労働省令で定める基準に従って業務を行わなければならないとも定めており、運営基準の側からも公正性が求められています。
線②:名義貸しの禁止——69条の35
介護保険法69条の35は「介護支援専門員は、介護支援専門員証を不正に使用し、又はその名義を他人に介護支援専門員の業務のため使用させてはならない」と定めています。
副業の文脈で気をつけたいのが、「ケアマネ監修」として名前を出す仕事です。実際に内容を確認せずに名義だけ貸す形は、この条文の趣旨に反します。監修を受ける場合は、実際に内容を読んで確認し、責任を持てる範囲でだけ引き受けること。これは記事監修に限らず、事業所の運営に名前を使わせる形も同じです。
線③:信用失墜行為の禁止と守秘義務
69条の36は信用失墜行為の禁止を定めています。ケアマネという資格の信用を損なう行為は、勤務時間外の副業であっても問題になり得ます。
そして69条の37は「介護支援専門員は、正当な理由なしに、その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならない。介護支援専門員でなくなった後においても、同様とする」と定めています。資格を失った後も続くのがポイントです。
ケアマネは、利用者の心身の状況・家族関係・経済状況・受診歴まで把握する立場です。副業で介護の記事を書くとき、実際のケースをそのまま使うことはできません。「担当した利用者で〜」という書き出しは避け、一般的な制度の説明や、公表されている統計に基づく記述にとどめてください。特定につながる書き方(地域・年齢・疾患・家族構成の組み合わせ)も避ける必要があります。
ケアマネに向く副業
ここまでの4つの義務を踏まえると、「特定の事業者と利害関係を持たず」「名義を貸さず」「利用者の情報を使わない」形が向いていることになります。
| 形 | 相性 | ポイント |
|---|---|---|
| 介護保険制度の記事の執筆・監修 | ◎ | 制度知識がそのまま活きる。労働時間の通算なし |
| ケアマネ試験の受験対策(講師・教材) | ◎ | 実務経験が価値になる。事業者との利害が生じない |
| 介護に関するセミナー・研修講師 | ○ | 主催者が特定事業者でないかを確認 |
| 家族介護者向けの相談(自費) | △ | 担当利用者と重ならないこと。守秘の管理が難しい |
| 介護サービス事業者での勤務 | 🔴 | 公正誠実義務との関係。原則避ける |
| 福祉用具・住宅改修の事業者での勤務 | 🔴 | ケアプランで紹介し得る立場。避ける |
もっとも相性がよいのが「書く・教える」領域です。ケアマネは制度を横断的に理解している専門職なので、介護保険の記事は書ける人が限られます。しかも業務委託なら労働基準法38条1項の労働時間の通算がかからないため、本業のシフトと衝突しません。
制度知識を「監修する側」で使う道もあります。みんなの記事監修は、資格を持つ専門家として登録し、記事監修の依頼を受ける形のサービスで、登録時に本人確認と資格証の確認があります。監修料は報酬(雑所得または事業所得)になり、労働時間として通算されないため、本業のシフトと重ならない形で受けられるのが特徴です。ただし介護保険法69条の35が名義貸しを禁じているので、実際に内容を確認して責任を持てる範囲でだけ引き受けることが前提です。在職中の方は、勤務先の副業の手続きを先に済ませてください。報酬や依頼の条件は変わることがあるため、最新の内容は公式サイトでご確認ください。[PR]
勤務先の規定も別にかかる
介護保険法の4つの義務とは別に、勤務先の就業規則があります。居宅介護支援事業所・地域包括支援センター・施設のいずれで働いているかで、規定の厳しさが違います。
特に地域包括支援センターは市町村から委託を受けていることが多く、公的な性格が強いため副業の届出が求められることがあります。また公立の施設・センターに勤務している場合は地方公務員なので、地方公務員法38条1項により任命権者の許可が必要です。自分の身分がどれかを先に確認してください。
主任ケアマネ・更新研修との関係
ケアマネの資格は更新制で、更新研修の受講が必要です。研修は平日に開催されることが多く、副業に時間を割きすぎると更新研修の日程を確保できなくなることがあります。
介護保険法69条の34第3項は「介護支援専門員は、要介護者等が自立した日常生活を営むのに必要な援助に関する専門的知識及び技術の水準を向上させ、その他その資質の向上を図るよう努めなければならない」と資質向上の努力義務を定めています。副業の時間配分を考えるときは、更新研修と自己研鑽の時間を先に確保してから残りで組むのが安全です。
税金|報酬は源泉徴収されることがある
執筆・監修の報酬は、所得税法204条1項1号により源泉徴収されるのが通常です。雑所得または事業所得として、翌年の確定申告で精算します。源泉徴収されているぶん申告すると還付になることもあるので、支払調書・振込明細を保管してください。
副業の所得が年20万円以下で所得税の確定申告をしない場合でも、住民税の申告は必要です。経費に入るのは、資料代・書籍代・通信費・パソコンの業務使用分など。自宅で行う場合の按分は経費の家事按分を参照してください。
よくある質問
Q1. ケアマネが介護サービス事業者で働くのは違法ですか?
直ちに違法とされるわけではありませんが、介護保険法69条の34第1項の公正誠実義務との関係で問題になり得ます。自分が担当利用者に紹介し得る事業者から報酬を受ける形は避けるのが安全です。
Q2. 自分の勤務先と関係のない地域の事業者ならいいですか?
担当利用者に紹介する可能性が実質的にないなら、公正さへの疑いは小さくなります。ただし勤務先の就業規則の問題は別に残るので、届出・許可の要否を確認してください。
Q3. 「ケアマネ監修」として名前を出せますか?
実際に内容を確認して責任を持てるなら可能です。内容を見ずに名義だけ貸すのは、69条の35の趣旨に反します。
Q4. 担当したケースを匿名で記事に書けますか?
69条の37の守秘義務は「業務に関して知り得た人の秘密」を対象にしており、匿名でも特定につながる書き方は避ける必要があります。一般的な制度の説明にとどめてください。この義務は資格を失った後も続きます。
Q5. 家族介護者向けの有料相談は可能ですか?
制度上の直接の禁止はありませんが、担当利用者やその家族と重なると公正誠実義務・守秘義務の管理が難しくなります。対象を限定し、勤務先にも相談してください。
Q6. 地域包括支援センター勤務でも同じですか?
市町村から委託を受けている場合が多く、公的性格が強いため副業の届出を求められることがあります。公立勤務なら地方公務員法38条1項の許可が必要です。
Q7. 副業をすると更新研修に影響しますか?
研修そのものへの影響はありませんが、平日開催が多いため日程の確保が課題になります。69条の34第3項の資質向上の努力義務もあるので、研修の時間を先に確保してください。
Q8. 執筆の副業は労働時間に通算されますか?
業務委託であれば労働基準法38条1項の通算はかかりません。雇用契約で行う場合は通算されます。契約の形を確認してください。
まとめ|4つの義務から逆算して選ぶ
ケアマネの副業は、介護保険法がこの資格に課している4つの義務——69条の34(公正誠実義務・特定の事業者に不当に偏らない)、69条の35(名義貸しの禁止)、69条の36(信用失墜行為の禁止)、69条の37(守秘義務・資格を失った後も継続)——から逆算して選ぶのが確実です。判断の中心は「自分が担当利用者に紹介し得る事業者から報酬を受けない」こと。この基準で残るのが、介護保険制度の執筆・監修、受験対策の講師・教材といった「書く・教える」領域で、業務委託なら労働時間の通算もかかりません。監修で名前を出すときは、内容を実際に確認して責任を持てる範囲に限ってください。勤務先の就業規則(公立なら地公法38条)は、これとは別にかかります。
参考にしている主な一次情報:介護保険法(平成9年法律第123号)第69条の2(登録)・第69条の34(公正・誠実な業務遂行義務)・第69条の35(名義貸しの禁止等)・第69条の36(信用失墜行為の禁止)・第69条の37(秘密保持義務)/地方公務員法(昭和25年法律第261号)第38条/労働基準法(昭和22年法律第49号)第38条/所得税法(昭和40年法律第33号)第204条。条文はe-Gov法令検索で確認しています。
※情報は執筆時点のものです。運営基準や研修の運用は省令・自治体によって異なります。副業の可否は勤務先の規定と併せてご確認ください。

