兼業の承認申請でいちばん手が止まるのが「理由欄」です。様式は自治体ごとに違いますが、書く内容はどこも同じで、任命権者が「本務の遂行に支障がない」と判断できる材料を、申請する側が出せているかが問われます。教育公務員特例法17条1項が「本務の遂行に支障がないと任命権者において認める場合には」という作りである以上、材料を出すのは申請する側です。この記事は、条文の構造から逆算して、通る理由欄と引っかかる理由欄の違いを、書き方のパターンで整理します。申請全体の流れは兼業承認申請の書き方、不承認だったときは不承認からの再申請へ。
結論:理由欄は「気持ち」ではなく「支障がない根拠」を書く欄
| 書き方 | 判断 | なぜ |
|---|---|---|
| 「生活が苦しいため」 | 🔴弱い | 動機であって、支障がないことの説明になっていない |
| 「スキルアップのため」 | 🔴弱い | 抽象的で、本務との関係が判断できない |
| 「週休日の◯時間に限り、勤務日には従事しない」 | 🟢強い | 時間の制約を自分から設定=支障がないと判断できる |
| 「勤務校の児童生徒・保護者は対象としない」 | 🟢強い | 利害関係が生じない形になっている |
| 「教育に関する内容で、本務の指導力の維持に資する」 | 🟢強い | 17条の「教育に関する」に沿い、本務との関係を積極的に説明できる |
線①:条文の構造——誰が何を判断するのか
教育公務員特例法17条1項は次のように定めています。
「教育公務員は、教育に関する他の職を兼ね、又は教育に関する他の事業若しくは事務に従事することが本務の遂行に支障がないと任命権者(……県費負担教職員については、市町村の教育委員会)において認める場合には、給与を受け、又は受けないで、その職を兼ね、又はその事業若しくは事務に従事することができる」
構造を分解すると、判断するのは任命権者、判断の対象は「本務の遂行に支障がないこと」です。つまり理由欄は、任命権者が「支障がない」と認めるための材料を提出する場所であって、自分がなぜやりたいかを述べる場所ではありません。ここを取り違えると、どれだけ丁寧に書いても評価されにくくなります。
また地方公務員法38条1項で扱われる場合、条文は「任命権者の許可を受けなければ……従事してはならない」という禁止+許可の構造です。こちらでも判断材料を出すのは申請する側という点は変わりません。なお教特法17条3項は、17条1項の場合には地公法38条2項により人事委員会が定める許可の基準によることを要しないと定めているため、一律の数値基準より個別の説明が効きやすい構造になっています。
線②:理由欄に入れる5つの要素
通りやすい理由欄には、共通して次の5つが入っています。順番もこのとおりに書くと読みやすくなります。
- 何をするのか(活動の内容を具体的に。「講師」ではなく「小学生向けオンライン算数指導」)
- いつやるのか(週休日・勤務時間外に限る旨と、上限の時間・回数)
- 誰に対してか(勤務校の児童生徒・保護者を対象としないこと)
- 本務との関係(支障がない理由。教育に関する内容なら、本務に資する面も書ける)
- 守ること(守秘義務、学校名を出さない、行事と重なる日は従事しない、など)
この5つは、どれも「支障がない」と判断するための材料です。逆に、収入の必要性・家庭の事情・キャリアの希望は、動機であって判断材料ではありません。書いてはいけないわけではありませんが、これだけで理由欄を埋めると弱くなります。
書き方の対比|同じ活動でも通り方が変わる
| 🔴引っかかる書き方 | 🟢通りやすい書き方 | |
|---|---|---|
| 内容 | 「オンラインで講師をします」 | 「オンライン学習サービスにおける小学生向けの算数の個別指導(1回50分)」 |
| 時間 | 「空いた時間にやります」 | 「土曜9:00〜12:00のうち2コマまで。勤務日および週休日の振替日には従事しない」 |
| 対象 | (記載なし) | 「本校の児童生徒および保護者は指導の対象としない。担当地域の指定を受けない形で申し込む」 |
| 本務との関係 | 「支障はありません」 | 「勤務時間外のみで、翌日が勤務日である日の夜間には従事しない。指導技術の維持にも資する」 |
| 守ること | (記載なし) | 「本校の名称・所在地は明示しない。職務上知り得た情報は使用しない」 |
右列に共通しているのは、自分から制約を設けて、それを書いていることです。制約を書くと窮屈に思えますが、実際には逆で、「この範囲なら支障がない」という合意を先に作れるため、後から活動を続けやすくなります。範囲を超えそうになったときは変更届を出す、という運用にもつなげられます。
「教育に関する」を活かす書き方
17条は「教育に関する他の職」「教育に関する他の事業若しくは事務」を対象にしています。活動が教育に関するものなら、本務との関係を「支障がない」より一歩進めて「資する」と書けるのが強みです。
たとえば次のような書き方です。「学習支援の現場で小学生の理解のつまずきに触れることは、本務における学習指導の改善に資すると考えている。従事は週休日に限り、本務の準備時間を圧迫しない範囲で行う。」——前半で本務との積極的な関係を、後半で時間の制約を書いています。
ただし「資する」と書くだけでは足りません。時間の制約と対象の限定がなければ、支障がないことの説明になっていないからです。「資する」は加点要素であって、土台は制約の明示です。
理由欄に書く「時間の制約」を現実的に設計するには、自分で枠を選べる形の仕事を選んでおくと書きやすくなります。たとえばよみかきそろばんくらぶのオンライン先生募集は、月曜〜土曜の7〜21時の中から可能な時間を選ぶ形で、自宅からZoomで個別に指導します。契約形態は雇用契約でも業務請負契約でもない講師登録で、源泉徴収は行われないため、所得額によっては自分で確定申告をすることになります。応募には大卒であること・長期(最低3年以上)続けられることといった条件があり、Zoomに必要な機材や回線は自分で用意します。申請の前に「どの曜日・時間に、月何コマまで」を決めておくと、理由欄がそのまま書けます。条件や募集状況は変わることがあるため、最新の内容は公式サイトでご確認ください。[PR]
やってはいけない書き方|4つ
①活動をぼかす。「教育関係の業務」「執筆活動」といった曖昧な書き方は、判断材料が出ていないので確認の往復が増えます。具体的に書くほうが早く進みます。
②時間を書かない。「勤務時間外に行います」だけでは、どれだけの負荷になるか判断できません。上限を数字で書いてください。
③報酬を小さく見せる。実際より少なく書くと、後から差が出たときに問題になります。見込みで構わないので、正確に書いてください。
④先に始めてから出す。いちばん避けたい形です。承認前に従事していた期間は、内容が適切でも手続違反として扱われます。
提出前のセルフチェック|7問
- 活動の内容を、知らない人が読んで想像できる具体さで書いたか
- 従事する曜日・時間帯・1回あたりの時間・月または年の上限を書いたか
- 勤務校の児童生徒・保護者を対象としないと明記したか
- 学校名・所属が特定される形で表示しないと書いたか
- 行事・部活動・週休日の振替と重なる日は従事しないと書いたか
- 報酬の額(1回あたり・月の見込み)を正確に書いたか
- 契約の形態(雇用/業務委託/講師登録)を募集要項どおりに書いたか
7つとも埋まっていれば、少なくとも「材料が足りない」という理由で止まることはなくなります。埋まらない項目があるなら、そこが申請の弱点です。
相談の順番|いきなり書類を出さない
実務上は、いきなり申請書を出すより、先に管理職へ口頭で相談するほうがスムーズに進みます。理由は2つあります。ひとつは、自治体によって17条と38条のどちらの様式かが違うため。もうひとつは、管理職が学校の行事や分掌の状況を踏まえて、時間の設定について助言できるためです。
相談のときに、上の7問に答えられる状態で行くと話が早く終わります。「やりたいのですが、どうでしょうか」ではなく、「この内容を、この時間に、この制約で考えています」と持っていくのが、通す近道です。
税金|承認が出た後の話
承認が出て報酬を受け取り始めたら、税金は自分で処理することになります。雇用の形なら給与所得、業務委託・講師登録なら雑所得または事業所得です。本業の年末調整では副業分は精算されないので、翌年の確定申告で合算します。
副業の所得が年20万円以下で所得税の確定申告をしない場合でも、住民税の申告は必要です。経費に入るのは、業務に使ったパソコン・通信費・教材費のうち業務分で、自宅で行う場合の按分は経費の家事按分を参照してください。
よくある質問
Q1. 理由欄に「収入を増やしたい」と書いてはいけませんか?
書いてはいけないわけではありません。ただし動機であって「支障がない」ことの説明にはならないので、それだけで埋めると弱くなります。時間・対象・制約とセットで書いてください。
Q2. どのくらいの分量を書けばいいですか?
様式の欄に収まる範囲で、5つの要素(内容・時間・対象・本務との関係・守ること)が入っていれば十分です。長さより、判断材料がそろっているかどうかです。
Q3. 上限の時間はどのくらいに設定すべきですか?
条文に数値の定めはなく、自治体の運用によります。17条で扱われる場合は人事委員会の許可基準によることを要しない(17条3項)ので、一律の上限より説明の内容が効きます。まずは無理なく守れる範囲で設定してください。
Q4. 一度承認された内容を増やしたいときは?
変更の届出や再申請が必要かは自治体によります。上限を書いておけば、その範囲内は追加の手続なしで動けるので、最初にやや余裕を持たせた上限にしておく方法もあります。
Q5. 管理職に反対されました。
反対の理由が「時間」なのか「内容」なのか「前例がない」なのかを確認してください。時間や対象の設定で解決できることが多く、形を変えて再度相談する余地があります。
Q6. 無報酬でも理由欄は同じでいいですか?
17条は「給与を受け、又は受けないで」と定めているので、無報酬でも承認の対象になり得ます。理由欄の書き方は同じで、報酬の欄に「無報酬」と書きます。
Q7. 私立学校の教員でも同じですか?
私立は17条・38条の適用外で、就業規則の副業規定に従います。ただし「本業に支障がないことを説明する」という考え方は、届出や許可を求められる場合に同じように役立ちます。
まとめ|理由欄は「支障がない根拠」を出す場所
教特法17条1項は「本務の遂行に支障がないと任命権者において認める場合」という作りなので、認めるための材料を出すのは申請する側です。理由欄には、①内容を具体的に、②時間の上限を数字で、③勤務校の児童生徒を対象としないこと、④本務との関係、⑤守ること(守秘・学校名を出さない・行事と重なる日は従事しない)の5つを書きます。動機だけを書くと弱くなり、自分から制約を設けて書くと通りやすくなります。しかも制約を先に書いておくと、その範囲では活動を続けやすくなるという実務上の利点があります。書類を出す前に管理職へ相談し、7問に答えられる状態で臨むのが近道です。
参考にしている主な一次情報:教育公務員特例法(昭和24年法律第1号)第17条/地方公務員法(昭和25年法律第261号)第34条・第38条。条文はe-Gov法令検索で確認しています。
※情報は執筆時点のものです。申請の様式・運用は自治体ごとに異なります。手続の前に所属の教育委員会・人事担当にご確認ください。
