「副業の所得が20万円以下なら申告しなくていい」——この一文はよく見かけますが、正確ではありません。正しくは「所得税の確定申告書を提出しなくてよい場合がある。住民税の申告は別に必要」です。教員の場合、住民税は給与から天引き(特別徴収)されているため、副業分をどう扱うかで通知の中身が変わります。ここを間違えると、申告漏れになるだけでなく、意図しない形で勤務先に副業分の税額が伝わることにもなります。この記事は、所得税法121条1項、地方税法317条の2第1項、同321条の3第2項という3つの条文を根拠に、教員が実際に踏む手順を整理します。承認の手続きそのものは兼業承認の理由欄の書き方、退職後の年金との関係は教員の退職後の年金と副業収入へ。
結論:20万円は所得税の話。住民税には20万円ルールがない
| 税 | 20万円以下のとき | 根拠 |
|---|---|---|
| 所得税 | 要件を満たせば確定申告書の提出は不要 | 所得税法121条1項1号 |
| 住民税 | 申告が必要(3月15日まで) | 地方税法317条の2第1項 |
| 確定申告をした場合 | 住民税の申告は不要(申告書のデータが市区町村に回る) | 実務上の取扱い |
つまり選択肢は2つです。①確定申告をする(住民税の申告は不要になる)か、②確定申告をせず、住民税の申告だけするか。何もしないという選択肢はありません。
線①:所得税法121条の「20万円以下」は条件付き
所得税法121条1項は、給与所得を有する居住者で、その年中に支払を受けるべき給与等の金額が2,000万円以下であるものについて、各号のいずれかに該当する場合には確定申告書を提出することを要しない、と定めています。教員に関係するのは主に1号と2号です。
| 号 | 当てはまる人 | 要件 |
|---|---|---|
| 1号 | 給与が1か所だけの人 | その給与の全部について源泉徴収・年末調整がされ、給与所得と退職所得以外の所得の合計が20万円以下 |
| 2号イ | 給与が2か所以上の人 | 従たる給与の額と、給与所得・退職所得以外の所得の合計が20万円以下 |
ここで注意すべき点が3つあります。
第一に、「所得」であって「収入」ではありません。執筆や講師の報酬なら、受け取った額から必要経費を引いた後の金額で判定します。逆に言えば、収入が25万円でも経費が6万円あれば所得は19万円で、1号に当てはまり得ます。
第二に、給与が2か所になると話が変わります。非常勤の講師として別の学校から給与を受けるような形だと、その給与は「従たる給与」になり、2号イの判定に組み込まれます。給与は経費を引けないので、金額がそのまま乗ってきます。
第三に、121条1項にはただし書があります。「不動産その他の資産をその給与所得に係る給与等の支払者の事業の用に供することによりその対価の支払を受ける場合その他の政令で定める場合」は、この規定の適用外です。
線②:住民税に20万円ルールは存在しない
地方税法317条の2第1項は、市町村民税の納税義務者は3月15日までに申告書を住所所在地の市町村長に提出しなければならないと定めています。そのうえで、ただし書で提出しなくてよい人を挙げています。教員が該当するのは次の部分です。
……給与支払報告書……を提出する義務がある者から一月一日現在において……給与……の支払を受けている者で前年中において給与所得以外の所得……を有しなかつたもの……については、この限りでない。
読み方はシンプルです。「給与所得以外の所得を有しなかった」人だけが、申告しなくてよい。副業の報酬が入った時点で、この除外に当てはまらなくなります。金額の下限は書かれていません。所得税法121条のような「20万円以下」という基準が、地方税法のこの条文には存在しないのです。
「20万円以下なら何もしなくていい」という説明が広まった理由は、多くの人が確定申告をしていて、その場合は住民税の申告が不要になるからです。確定申告をしない人だけが、住民税の申告を自分でしなければならない——この関係が抜け落ちると、話が逆に伝わります。
線③:特別徴収と普通徴収の分かれ目
教員の住民税は、給与から毎月天引きされる特別徴収です。地方税法321条の3第1項は、前年中に給与の支払を受け、当該年度の初日に給与の支払を受けている人の市町村民税を、特別徴収の方法によって徴収するものとしています。
問題は同条2項です。給与所得者に給与所得以外の所得がある場合、市町村は条例の定めるところにより、その所得に係る所得割額を給与分に加算して特別徴収できるとしています。ただし、ただし書があります。
ただし、第三百十七条の二第一項の申告書に給与所得以外の所得に係る所得割額を普通徴収の方法によつて徴収されたい旨の記載があるときは、この限りでない。
つまり、副業分の住民税を自分で納付する形にしたければ、申告書にその旨を記載するのが条文上の道筋です。確定申告書にも住民税に関する事項の欄があり、「自分で納付」を選ぶ形になっています。住民税の申告書だけを出す場合も同じ欄があります。
ただし、記載すれば必ず通るとは限りません。市町村の運用として、給与所得以外の所得のうち給与や公的年金等に該当するものは普通徴収にできない扱いをしている自治体があります。副業が「給与」の形(別の学校の非常勤など)だと、分けられない可能性が高いということです。報酬(業務委託)の形であれば分けやすく、給与の形だと分けにくい——ここは契約の形を決める段階で効いてきます。
なお321条の3第3項は、いったん特別徴収になった後でも、特別の事情が生じて本人から申出があり、その事情がやむを得ないと認められるときは、まだ徴収していない額の全部または一部を普通徴収に切り替えるものとしています。
「所得」を出すところでつまずかないために
20万円の判定は所得ベースなので、経費をどこまで入れられるかで結論が変わります。教員の副業でよくある形ごとに、経費に入りやすいものを整理しておきます。
| 副業の形 | 所得区分 | 経費に入れやすいもの |
|---|---|---|
| 執筆・監修・問題作成 | 雑所得(規模により事業所得) | 資料代、書籍、通信費の按分、パソコンの減価償却 |
| オンライン指導(講師登録) | 雑所得(規模により事業所得) | 通信費の按分、カメラ・ヘッドセット、教材費 |
| 模試監督・採点(給与で受け取る場合) | 給与所得 | 経費は引けない。給与所得控除で自動計算される |
| フリマ・不用品の売却 | 原則非課税(生活用動産) | 継続的な仕入れ販売になると事業所得・雑所得に変わる |
いちばん多い誤りは、給与で受け取っているのに経費を引けると思っているケースです。源泉徴収票が出るなら給与、支払調書が出るなら報酬、というのが実務上の見分け方になります。どちらで受け取るかは契約時に決まるので、複数の話がある場合は「これは給与ですか、報酬ですか」と先に聞いておくと、後の処理が楽になります。
手順:この順番でやる
- 所得を計算する。収入から必要経費を引く。20万円の判定は所得ベース
- 給与が何か所かを数える。2か所以上なら121条1項2号の判定になる
- 確定申告をするかどうか決める。源泉徴収されている報酬があるなら、申告したほうが還付になることが多い
- 確定申告をしないなら、住民税の申告書を3月15日までに出す。市区町村の窓口またはサイトから様式を入手する
- どちらの様式でも「自分で納付」の欄を確認する。記載を忘れると加算して特別徴収される
- 5〜6月の税額通知を確認する。意図した形になっているかを毎年見る
どちらを選ぶと得か
| 状況 | 選ぶ形 | 理由 |
|---|---|---|
| 報酬から源泉徴収されている(原稿料・講演料など) | 確定申告 | 源泉徴収された税額が精算され、還付になることが多い |
| 経費が多く、所得が小さい | 確定申告 | 経費を反映した所得で住民税が計算される |
| 源泉徴収がなく、経費もほぼない少額 | 住民税の申告のみ | 所得税の申告義務がなく、手間が少ない |
| 医療費控除やふるさと納税を使う年 | 確定申告 | どのみち申告するので、住民税の申告は不要になる |
「20万円以下だから申告しない」と決めてしまうと、源泉徴収された税額が戻らないまま終わることがあります。原稿料や講演料は支払時に源泉徴収されているのが普通なので、申告したほうが手取りが増える場合が多いという点は押さえておいてください。
判定を毎年やり直すことになるので、収入と経費は発生した月に記録しておくほうが早く済みます。件数が増えたら会計ソフトに寄せる形が現実的で、弥生シリーズのように口座やクレジットカードの明細を取り込んで仕訳し、そのまま申告書の形まで出せるものを使うと、年明けに1年分をさかのぼって集計し直す作業がなくなります。無料で使える期間や料金体系は製品と時期によって異なるため、最新の内容は公式サイトでご確認ください。[PR]
よくある疑問
Q. 副業の所得が3万円でも住民税の申告は要りますか。
地方税法317条の2第1項のただし書は「給与所得以外の所得を有しなかつたもの」を除外の対象にしています。金額の下限は条文に書かれていません。少額でも申告の対象と考えるのが原則です。取扱いは市区町村に確認してください。
Q. 確定申告をすれば住民税の申告はしなくていいですか。
はい。確定申告書の内容が市区町村に回るため、重ねて住民税の申告書を出す必要はありません。ただし「自分で納付」の欄は確定申告書側で選ぶことになるので、記載を忘れないでください。
Q. 「自分で納付」にすれば勤務先に一切分からないのですか。
そうとは限りません。給与の形で受け取る副業分は普通徴収に分けられないことが多く、また税額以外の経路(社会保険、本人の発信、第三者からの連絡)もあります。税の処理は経路の1つを閉じるだけです。そもそも承認・許可を得ていれば隠す必要がありません。
Q. 20万円以下でも確定申告をしたら、住民税は増えますか。
申告しても申告しなくても、住民税は同じ所得に対して課されます。確定申告をすると住民税の申告が不要になるだけで、税額が増えるわけではありません。
参考にしている主な一次情報:所得税法(昭和40年法律第33号)第121条/地方税法(昭和25年法律第226号)第317条の2・第321条の3・第321条の4。条文はe-Gov法令検索で確認しています。
※情報は執筆時点のものです。住民税の徴収方法の取扱いは市区町村の条例と運用によって異なり、普通徴収への切り替えが認められない場合があります。実際の判定と手続は、お住まいの市区町村と所轄の税務署にご確認ください。この記事は特定の申告方法を勧めるものではありません。
