育児休業に入ると給与が止まり、代わりに共済組合から育児休業手当金が出ます。手取りが減る期間が最長で数年続くため、「この間に在宅でできる仕事をしておきたい」と考えるのは自然です。ただ、育休中の教員には、一般の会社員とは違う2つの制約があります。第一に、育休中でも職員としての身分は残っていること。第二に、手当金が「勤務に服さなかつた期間」に対して支給される建て付けになっていることです。結論から言うと、育休中の副業は「できない」のではなく「許可を取ったうえで、手当金の条件を所属の共済組合に確認してから始めるもの」です。この記事は、地方公務員の育児休業等に関する法律4条、地方公務員法38条、教育公務員特例法17条、地方公務員等共済組合法70条の2を根拠に、判断の順番を整理します。承認申請そのものは兼業承認の理由欄の書き方、復職後の組み方は教員が土日だけ教える副業の組み方へ。
結論:身分は残る。だから許可は要る
| 論点 | 結論 | 根拠 |
|---|---|---|
| 育休中は職員でなくなるのか | 職を保有したまま。職務に従事しないだけ | 育休法4条1項 |
| 育休中に給与は出るか | 出ない。代わりに共済から手当金 | 育休法4条2項/共済法70条の2 |
| 報酬を得る副業に許可は要るか | 要る。身分が残る以上38条は生きている | 地公法38条1項 |
| 教育に関する事業なら | 任命権者が本務の遂行に支障がないと認める場合は従事できる | 教特法17条1項 |
| 手当金の額 | 標準報酬の日額の67%(180日まで)、以後50% | 共済法70条の2第1項 |
線①:育休は「辞めている」わけではない
地方公務員の育児休業等に関する法律4条1項は、次のように定めています。
育児休業をしている職員は、育児休業を開始した時就いていた職又は育児休業の期間中に異動した職を保有するが、職務に従事しない。
ここが出発点です。「職を保有する」=職員である。職務に従事していないだけで、身分は続いています。同条2項は「育児休業をしている期間については、給与を支給しない」と定めており、給与が止まるのは職務に従事していないからであって、職員でなくなったからではありません。
身分が残るということは、服務に関する規定も残るということです。地方公務員法38条1項は、職員が任命権者の許可を受けなければ、営利企業の役員等を兼ね、自ら営利企業を営み、または「報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事」してはならないと定めています。この条文は「勤務している職員」に限定されていません。育休中であっても、報酬を得る仕事に就くなら許可が要ります。
なお38条1項にはただし書があり、非常勤職員(短時間勤務の職を占める職員などを除く)は許可の対象から外れます。育休を取れる立場にいるのは基本的に常勤の職員なので、このただし書は当てはまらないと考えておくのが安全です。
線②:教育に関する事業なら17条、それ以外は38条
教育公務員特例法17条1項は、教育公務員が「教育に関する他の職を兼ね、又は教育に関する他の事業若しくは事務に従事すること」が本務の遂行に支障がないと任命権者において認める場合には、給与を受け、または受けないでその職を兼ね、事業・事務に従事できるとしています。
育休中は本務に従事していないので、「本務の遂行に支障がない」は説明しやすい状況に見えます。ただし実際の判断は任命権者が行い、多くの自治体では育休の目的である子の養育に支障が出ないかという観点も併せて見ます。育児休業は子を養育するために職務を離れる制度であり、その時間を別の仕事に使うことが制度の趣旨に合うかを問われるためです。申請書には「養育の時間をどう確保したうえで、どの時間帯にどれだけ働くか」を具体的に書いてください。
| 仕事の内容 | 扱われやすい条文 | 申請で聞かれやすいこと |
|---|---|---|
| 塾・オンライン講師、教材作成、模試の採点 | 教特法17条 | 時間帯・回数・養育との両立 |
| 執筆・監修(教育分野) | 教特法17条 | 媒体名・報酬の性質・氏名の出し方 |
| 在宅の事務・カスタマー対応など教育以外 | 地公法38条 | 営利企業性・信用失墜のおそれ・時間 |
| ネット物販・アフィリエイト | 地公法38条(自ら営利企業を営む形) | 規模・継続性・屋号の有無 |
線③:手当金は「勤務に服さなかつた期間」に対して出る
地方公務員等共済組合法70条の2第1項は、育児休業手当金について「当該育児休業等により勤務に服さなかつた期間」の1日につき、標準報酬の日額の100分の50(育児休業等をした期間が180日に達するまでは100分の67)に相当する額を支給すると定めています。
ここでいう「勤務」は本務の勤務を指します。条文の文言だけを読むかぎり、副業をした日について手当金を止めるという規定は置かれていません。ただし、これで「副業をしても手当金は必ず満額出る」と決めつけるのは早すぎます。理由は2つあります。
- 共済組合ごとに取扱いが定められている。手当金の支給要件の細部は総務省令と各共済組合の規程・通知で運用されており、就労の状況を届け出させる組合があります
- 雇用保険の育児休業給付とは別制度である。共済法70条の2第4項は、同一の育児休業について雇用保険の育児休業給付を受けられるときは手当金を支給しないとしています。会社員向けの記事で見る「月10日・80時間まで」という基準は雇用保険の側の話で、共済の手当金にそのまま当てはめられません
やるべきことは1つです。所属の共済組合に「副業をした場合、育児休業手当金の取扱いはどうなるか」を先に問い合わせる。ここを飛ばして始めると、後から返還を求められる形になり得ます。任命権者の許可と共済組合の確認は、別々に取る必要があります。
育休中に選ぶなら、どんな形か
制約を踏まえると、選べる形はかなり絞られます。判断軸は「養育の時間を削らないか」「許可の説明がしやすいか」「途中でやめても相手に迷惑がかからないか」の3つです。
| 形 | 育休中の向き不向き | 理由 |
|---|---|---|
| 納期だけ決まっている在宅の仕事 | 向く | 子が寝ている時間に寄せられる。中断もしやすい |
| 自分で稼働枠を決める在宅の業務委託 | 向く | 養育の予定に合わせて時間を動かせる |
| 固定シフトの外勤 | 向かない | 養育との両立の説明が難しく、体調にも左右される |
| 継続的な物販・在庫を持つ形 | 向かない | 自ら営利企業を営む形と評価されやすい |
期間の設計:教員の育休は「子が3歳になる日まで」
会社員の育児休業と混同されやすい点として、期間の長さがあります。地方公務員の育児休業等に関する法律2条1項は、職員が任命権者の承認を受けて、子を養育するため当該子が3歳に達する日までの期間内で育児休業をすることができる、という形で定めています(非常勤職員については、子の養育の事情に応じて1歳に達する日から1歳6か月に達する日までの間で条例で定める日まで、とされています)。雇用保険の育児休業給付が原則1歳までで、要件を満たす場合に1歳6か月・2歳まで延びるのとは、制度の作りが違います。
一方、共済法70条の2第1項の育児休業手当金は、子が1歳に達する日までの期間が原則で、総務省令で定める場合に該当するときに1歳6か月、さらに2歳まで延びる形です。つまり「休める期間」と「手当金が出る期間」は一致しません。3歳まで休めるとしても、手当金が出るのは早ければ1歳までで、そこから先は無給の期間になります。副業を検討する動機が「手当金が切れた後の生活」にあるなら、その時期は制度上あらかじめ見えているということです。
また育休法3条は、育児休業をしている職員が任命権者に対して期間の延長を請求できるとしたうえで、2項で「条例で定める特別の事情がある場合を除き、一回に限る」と定めています。期間の取り方は後から何度も変えられる前提ではありません。復職の時期と、無給になる時期を先に線で引いてから、副業を検討する順番のほうが設計しやすくなります。
手順:この順番で進める
- 所属に「育休中の兼業の取扱い」を聞く。17条と38条のどちらで出すか、様式は何かを確認する
- 共済組合に手当金の取扱いを聞く。就労の届出が要るか、支給に影響するかを確認する
- 仕事の形を決める。時間を自分で動かせる形にしぼる
- 申請書を出す。時間帯・回数・養育の時間の確保を具体的に書く
- 許可が出てから始める。先に始めて後から出すのは、それ自体が問題になる
よくある疑問
Q. 無報酬なら手続きは不要ですか。
地公法38条1項が許可の対象にしているのは、営利企業の役員等を兼ねる場合と、報酬を得て事業・事務に従事する場合です。無報酬であれば1項の許可の対象からは外れますが、多くの自治体が届出を求めています。所属に確認してください。
Q. 育休が失効することはありますか。
育休法5条1項は、育休をしている職員が産前の休業を始めた場合、出産した場合、休職・停職の処分を受けた場合、育休に係る子が死亡し、または自分の子でなくなった場合に、承認が効力を失うと定めています。また2項は、子を養育しなくなったことなど条例で定める事由に該当すると認めるときは、任命権者が承認を取り消すとしています。副業の内容が「子を養育しなくなった」と評価される状態になれば、取消しの対象になり得ます。
Q. 配偶者の扶養に入っている場合は関係ありますか。
育休中の教員は共済の被保険者のままなので、自分が扶養に入る話とは別です。ただし副業の収入が増えれば所得税・住民税の対象になります。給与以外の所得がある年は、住民税の申告が必要になる点に注意してください。
Q. 復職後も続けられますか。
許可は期間を区切って出されるのが一般的です。復職すると本務の勤務が戻るため、「本務の遂行に支障がない」の判断材料が変わります。復職のタイミングで申請をやり直す前提で組んでください。
参考にしている主な一次情報:地方公務員の育児休業等に関する法律(平成3年法律第110号)第2条・第4条・第5条/地方公務員法(昭和25年法律第261号)第38条/教育公務員特例法(昭和24年法律第1号)第17条/地方公務員等共済組合法(昭和37年法律第152号)第70条の2。条文はe-Gov法令検索で確認しています。
※情報は執筆時点のものです。育児休業手当金の取扱い、兼業の許可基準、必要な様式は自治体・共済組合ごとに異なります。実際の手続きは所属の教育委員会・事務担当と、加入している共済組合にご確認ください。この記事は特定のサービスへの登録を勧めるものではありません。

