公務員が「クラウドソーシングに登録して、在宅で記事を書いたり、データ入力をしたりするのは副業になるのか」——答えは報酬を受ける以上「副業(38条の許可の対象)」です。ただし、登録するだけ・募集を眺めるだけ・無報酬のコンペに応募するだけなら対象外。そして、クラウドソーシングの案件は業務委託なので労働時間の通算がなく、勤務時間外に在宅で完結し、利害関係がないという、公務員の許可基準に合わせやすい特徴があります。この記事は、地方公務員法38条・35条・33条・34条を根拠に、公務員がクラウドソーシングで副業をするときの「許可が要る線」「許可が通る形」「通らない形」「申請書の書き方」を整理します。タイミー等の単発バイトは公務員がタイミー・スポットワークをやると副業になる?へ。
結論:受注して報酬を受けた時点で38条の対象。登録・閲覧・無報酬は対象外。許可は「在宅・勤務時間外・利害関係なし・報酬が相当」の形で通す
| 行為 | 38条 | 理由 |
|---|---|---|
| クラウドソーシングに登録する | 対象外 | 報酬が発生していない |
| 募集を閲覧する・相場を調べる | 対象外 | 同上 |
| 無報酬のコンペ・テストに応募する | 対象外(報酬が出れば対象) | 「報酬を得て」に当たらない。採用されて報酬が出る時点で対象 |
| 案件を受注して報酬を受ける(記事・データ入力・翻訳・デザイン等) | 対象=許可が必要 | 「報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事」 |
| 継続案件を複数抱え、事業規模になる | 対象(「自ら営利企業を営む」と評価され得る) | 規模によって許可の類型が変わる |
| 自治体の業務(広報・計画策定等)の受託案件に応募する | 対象+利害関係 | 33条・公正さの問題。許可は出ない |
線①:38条——「いかなる事業若しくは事務にも」
地方公務員法38条1項は、任命権者の許可を受けなければ「報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事してはならない」と定めています。雇用か業務委託かを問わず、1件数千円の記事作成でも、報酬を受ければ対象です。「少額だから」「単発だから」は38条の文言上の例外ではなく、許可の要否ではなく処分の軽重に影響する要素にすぎません。
逆に、報酬が発生しない行為は対象外です。登録、閲覧、プロフィール作成、無報酬のコンペ応募、スキルの学習——ここまでは許可なしで進められます。「最初の受注の前に許可を取る」のが手順です。
線②:許可が通りやすい形——クラウドソーシングの特徴が許可基準に合う
自治体の許可基準は、「職務の遂行に支障がない」「職務の公正を妨げない(利害関係がない)」「信用を傷つけない」「勤務時間外に行う」が定番です。クラウドソーシングの業務委託案件は、この基準に合わせやすい性質を持っています。
- 在宅・勤務時間外で完結:納期はあるが時間の拘束がなく、35条(職務専念義務)に触れにくい
- 労働時間の通算がない:業務委託なので労基法38条の通算の対象外。「本業の疲労で職務に支障」の懸念が雇用より小さい
- 発注者が不特定で利害関係が生じにくい:自治体の取引先・許認可の相手方になる発注者を避ければ、33条の問題が起きにくい
- 報酬が相当な範囲:1件数千円〜数万円の案件が中心で、「職務より副業が主」と見られにくい
許可が出やすい類型として多くの自治体が挙げる「執筆・講演・翻訳」は、クラウドソーシングの主要な案件と重なります。
線③:通らない形・処分になる形
- 勤務時間中に作業する:昼休み・待機時間にスマホで納品作業をすれば35条違反が重なる
- 職場の情報・成果物を使う:自治体の内部資料・データ・写真を記事やデザインに流用すれば34条(秘密)・著作権の問題
- 自治体の発注案件に応募する:自分の自治体の広報記事・計画策定・システム開発の受託に個人で応募する形は、利害関係=33条・公正さの問題で許可は出ない
- 「○○市職員」を名乗って受注する:プロフィールに所属を書いて信用を売りにする形は33条の問題。匿名・実名はどちらでも構わないが、所属を営業に使わない
- 無許可で継続:報酬が少額でも38条違反。発覚の経路は住民税(事業・雑所得は普通徴収を選べるが、許可を取っていない時点で違反)と、納品物のクレジット・SNS
案件の種類別|許可の通りやすさと注意点
| 案件 | 許可の通りやすさ | 注意点 |
|---|---|---|
| 記事執筆(一般向け解説・体験記) | 高い(執筆は許可類型の定番) | 職務上の情報を使わない。自治体名を出して書かない |
| データ入力・文字起こし | 高い(単純作業・在宅) | 個人情報を扱う案件は発注者の管理体制を確認 |
| 翻訳 | 高い | 公文書の翻訳案件で自治体関係のものは避ける |
| デザイン・動画編集 | 中(制作物の公開範囲による) | 自治体の広報物の案件は利害関係 |
| Web制作・システム開発 | 中(継続・規模で「自営」と見られることがある) | 自治体のシステム案件は不可 |
| コンサル・アドバイス(行政手続の相談等) | 低い(職務との重なり・公正さ) | 職務に関する助言を個人で売る形は許可が出にくい |
申請書の書き方|クラウドソーシング版
許可申請書(営利企業等従事許可申請書)に書く要素は次のとおりです。発注者が不特定であることをどう書くかがポイントです。
- 従事先:「クラウドソーシングサイト(ランサーズ等)を通じて受注する業務委託」。特定の発注者がいる場合はその名称も
- 業務の内容:「Web記事の執筆(行政手続・防災・教育等の一般向け解説)」「データ入力」「翻訳」のように具体的に。職務と重なる専門分野なら、内部情報を使わない旨を添える
- 期間・時間:「令和○年○月〜○月、平日夜・休日に月○時間程度、在宅」。勤務時間外であることを明示
- 報酬:「1件○円〜○円、月額○円程度の見込み」。実績がなければ相場から見込みを書く
- 職務との関係・支障がない理由:「発注者は自治体の取引先・許認可の相手方ではない(該当する案件は受けない)」「勤務時間中に作業しない」「職務上の情報を使用しない」
申請書の書き方の基本は公務員の兼業許可申請の書き方にまとめています。許可には「発注者が自治体の利害関係者に当たらないこと」などの条件が付くのが通常で、その条件の中で案件を選びます。
最初の案件までの順番
- 登録して相場を把握する(許可不要)。ランサーズのようなクラウドソーシングで、自分の経験(行政手続・広報・教育・防災・会計など)に近い募集を眺め、1件あたりの報酬と求められる要件を確認する[PR]
- 申請書を書いて許可を取る。見込みの報酬・時間は相場から
- 許可の条件に合う案件だけ受ける。自治体の関係者・利害関係者の案件は避ける
- 帳簿をつける。報酬・経費・源泉徴収の記録
- 年度ごとの更新。実績(件数・報酬・時間)を次の申請書に書く。見込みより大きく超えていれば、超えた時点で人事に報告する
税金|雑所得・事業所得。普通徴収を選べるが、許可が先
クラウドソーシングの報酬は雑所得(規模が大きければ事業所得)です。経費を引いた所得が年20万円を超えれば所得税の確定申告、20万円以下でも住民税の申告が必要。発注者によっては報酬から源泉徴収されているので、申告で精算します。確定申告書で「自分で納付」(普通徴収)を選べば住民税は本業に乗りませんが、許可を取っていれば乗っても問題ありません。帳簿づけと申告書の作成を一か所で済ませたい場合は、弥生のクラウド確定申告ソフトのような会計ソフトを使う方法があります(料金・対応範囲は公式サイトでご確認ください)。[PR]
よくある質問
Q1. 1件500円のタスク案件でも許可が要る?
報酬を受ける以上、38条の対象です。金額は許可の要否ではなく、許可の判断や処分の軽重に影響する要素です。
Q2. ポイントで報酬を受ける形なら?
現金化できる・商品と交換できるポイントは報酬です。形を変えても「報酬を得て」に当たります。
Q3. 許可を取る前に、試しに1件だけ受けてもいい?
1件でも無許可の従事です。無報酬のテスト・コンペで実力を確かめ、報酬が出る案件は許可の後に。
Q4. 自分の専門(税務・福祉・都市計画)の記事を書くのは?
一般化した知識を書く分には問題ありません。内部情報・未公開の情報・個別の住民の情報を使えば34条の問題です。申請書に「職務上の情報は使用しない」と書き、その通りに運用してください。
Q5. 発注者が匿名で、自治体の関係者かどうか分からない
クラウドソーシングでは発注者の実名が分からない案件があります。案件の内容(自治体名が入った広報・計画・システム)から利害関係が疑われるものは受けない、という運用にしておけば足ります。許可の条件にも「利害関係者の案件は受けない」と書かれるのが通常で、判断に迷う案件は人事に確認してください。
Q6. パートタイムの会計年度任用職員は?
38条の適用外で許可は不要です。自治体の届出要綱・34条・35条は残ります。詳細は会計年度任用職員の副業へ。
まとめ|「受注の前に許可」。形は許可基準に合わせやすい
公務員のクラウドソーシングは、報酬を受けた時点で38条の対象。登録・閲覧・無報酬のテストまでは許可なしで進められ、最初の受注の前に許可を取ります。在宅・勤務時間外・業務委託・発注者が不特定という性質は自治体の許可基準に合わせやすく、執筆・翻訳・データ入力は通りやすい類型。勤務時間中の作業・職場の情報の流用・自治体の案件への応募・所属を売りにする営業だけは避ける。公務員全体の考え方は公務員の副業ガイドをどうぞ。
参考にしている主な一次情報:地方公務員法(昭和25年法律第261号)第29条・第33条・第34条・第35条・第38条/労働基準法(昭和22年法律第49号)第38条(いずれもe-Gov法令検索)/国税庁「給与所得者で確定申告が必要な人」「報酬・料金等の源泉徴収」。
※情報は執筆時点のもので、許可基準・様式・許可に付される条件は自治体ごとに異なります。実際に動く前に、所属の人事担当にご確認ください。
